法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

東京大空襲の証言が封印されている報道を読んで、きちんと展示される韓国の博物館などを思う

くりかえされた空襲のなかでも、特に重視されている3月10日にあわせて東京新聞が報じていた。
www.tokyo-np.co.jp

 証言ビデオは1996~99年度、当時都が建設を目指していた祈念館での公開を目的に収録した。330人分が集まったが、日本の加害についての取り上げ方など、祈念館での展示内容や歴史認識を巡って反発があり、都が99年、建設の計画を凍結。ビデオの公開も宙に浮いた。

うち9人分だけ同意をえて別のかたちで公開されているものの、貴重な記録の大半は当初の目的外で公開する同意をえようとしていない。証言者が亡くなり、遺族の同意をえることも難しい。
さらに証言だけでなく遺品も常設展示ができていない問題を2020年11月に産経新聞が報じていた。
www.sankei.com
「アジアの人々に犠牲を強いた事件や中国への都市爆撃から東京大空襲に至る流れを紹介する」という建設案への反発があったという。

10年3月の都議会文教委員会で当時、都議会民主党の都議だった土屋敬之氏は特定の歴史観に偏っているとして問題視した。都議会自民党など他会派も批判し、空襲の被災者らから見直しを求める陳情が相次いだ。

名前があがっている土屋氏は民主党のなかでも極めて保守的な立場で知られ、性教育への弾圧などで自民党と協力していた*1民主党主流派とも対立をつづけ、民主党政権が誕生した2009年に除名させられた。同類の原口一博氏や松原仁氏が立憲民主党にいることと比べれば、よほどの関係性だったことがうかがえる。
ただし産経記事は冒頭で「議論に携わった関係者からは客観的な形での常設展示を求める声が上がっている」と状況を説明し、末尾でも土屋氏の「戦争体験者の高齢化が進む中、政治的な主張とは距離を置いた形で、正しく歴史を伝える方法を早急に考えるべきだろう」というコメントを批判もせずに引いている。
大規模な都市爆撃を日本軍が先行して中国に対しておこなっていた史実は、産経新聞にとっては客観的ではない政治的な主張になってしまうようだ。


ここで少し前に公式サイトを見た「戦争と女性の人権博物館」を思い出さずにいられなかった。日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯、いわゆる正義連*2が運営している施設だ。
www.womenandwarmuseum.net
もちろん設立の目的からして日本軍慰安所制度を批判しており、元慰安婦の証言や観覧者の追体験を重視してコースが設置されている。
しかし観覧コースの最後に、現在つづいている世界中の戦争やその暴力にさらされている女性たちについての展示が常設されているのだ。

1階常設館(世界の紛争と女性への暴力)
現在戦時下で苦しんでいる世界の女性について多様な事例と写真を通じ展示しており、壁面の映像では戦争の惨禍を一編のミュージックビデオを見るように鑑賞することができます。
観覧外時間には、企画展示館とあわせてセミナー などに活用できる多目的空間です。

また、企画展示としてベトナム戦争における韓国軍の加害についても紹介されている。

企画展示館 2
終戦70年特別展として、ベトナム戦争で韓国軍によって性暴力被害を受けたベトナム女性の痛みを紹介しています。恥ずべき歴史を見つめ、平和のための一歩を踏み出す場です。

一方で日本の広島平和記念資料館でも、常設展示で広島が軍都であったことが明記され、その部隊が日中戦争へ行ったこと、さらに南京事件も言及されている*3
hpmmuseum.jp

広島は、明治維新以後、中国地方の中心都市として発展し、早くから全国有数の軍都となりました。日清戦争(1894年~1895年)では戦争の指揮を執る大本営が設けられ、宇品港も軍用港として活用されました。その後も広島は戦争のたびに陸軍部隊の集結・進発の地となり、軍用施設も年々拡充されていきました。

hpmmuseum.jp

戦争は長引き、多くの日本人兵士が戦地で倒れ、家族の元に帰ることができませんでした。一方、南京事件のように、中国人兵士だけでなく捕虜や民間人、子どもも犠牲になりました。

日本でも本来ならこれくらいの展示はできるはずなのだ。
しかし今、それをさまたげるために、貴重な証言の多くが葬られようとしている。
たとえるなら都市の記憶の自殺行為だ。

*1:www.jcp.or.jp

*2:旧称の挺対協が有名か。

*3:もう少し日本軍が加害したことが明らかな文章にしてほしいが。主語が欠落しているため、このサイトの説明文では前提情報を知らない人には理解しづらいだろう。