法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『えいがのおそ松さん』

高校の同窓会へ出席したものの、ニートという立場を恥じて失敗してしまった松野家の六つ子たち。
そのまま酒に逃げて目をさました次の朝、不思議な光景が広がっていた。
そこは六つ子が高校の卒業式をむかえる前日の世界。本来の世界に戻るため六つ子は謎を解こうとするが……


2019年公開のアニメ映画。TVアニメ2期が終わった後、3期がはじまる前に同じスタッフによって完全新作で制作された*1

前世紀にヒットした少年ギャグ漫画を、キャラクターの年齢をかさねたオリジナル設定でアニメ化し、大ヒットした『おそ松さん』。
原作では同じキャラクターだった六つ子が、アニメで違う性格の大人に育つまでを、少しずつ過去を思い出すかたちで描いていく。
GYAOの年末年始アニメ特集で、昨日まで初無料配信していたのを機会に視聴した。
gyao.yahoo.co.jp


TV版は1期が想定外にヒットしたため、2期も3期も呪縛にとらわれてしまい、自己否定するようなギャグが多い印象がある。メタネタでも笑えればいいのだが、身の丈にあわない評価から逃げるように、シュールな展開で自壊するばかり。
それがこの劇場版では過去と現在、外面と内実のギャップというコンセプトをとおして、きちんと状況を作りこんで笑わせてくれた。
冒頭のニートを隠した同窓会のかっこつけに始まり、高校時代の自分たちを見る気恥ずかしさに、その自分たちが演じていることを誰よりも理解している痛々しさ……どれもキャラクター描写として手がたく、かつ普遍性があって共感もできてしまう。
ギャグ漫画のキャラクターがリアルな高校生から距離をとられ、それゆえ違うキャラクターを演じるようになり、その反動で卒業後はさらに違うキャラクターになった……という謎解きも長編映画の流れで見れば納得感がある。
そしてそんなギャグ漫画のキャラクターだからこそ、ひとりの少女の学校生活を楽しませ、心のささえになっただろうと思わせるクライマックスは、意外と人情喜劇として泣かせるものがあった。


タイムスリップかと思いきや、実際は思い出の実体化という設定が明かされ、現実にはありえない情景が展開されていく。この設定で違う時代が同居している違和感にも説明がつく。
誰もが記憶のなかの存在ゆえ、興味がうすい群集の顔はへのへのもへじだったり、問いつめられた人間が崩壊するような描写も笑えるスプラッター
設定上は誰の記憶にも残っていないものはその世界に存在しないわけだが、そこで疑問に思っていた部分にきちんと説明がついたことも感心した。


けっこう理知的な話運びに感心したし、面白いビジュアルも多く、泣きと笑いがバランスよく娯楽としてつめこまれている。
文化祭の準備でわきたつ気持ちで青春を描いた『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』と同じように、同窓会でわきあがる後悔から青春を描いた作品として、アニメ史に残っても良い作品だと思った。わりと本気で。

*1:学生時代に弱井トト子へ橋本にゃーが手紙をわたす劇場版の描写が3期につづいていたりする。