事件があったのは1週間前のニューヨーク州バッファロー。
警察による黒人差別への抗議に立っていた男性が、警官隊につきとばされて後頭部から倒れる衝撃的な映像が撮影されている。
警察の暴力動画、アメリカに衝撃与える フロイドさん抗議行動 - BBCニュース
ニューヨーク州バッファローで4日撮影された映像では、夜間外出禁止令の取り締まりに出動した警官隊に男性(75)が接近。警官隊が押し返すと、男性は後ろ向きに倒れ、地面に後頭部を打ちつけた。
たぶん老人だからだろう、無理に押されても後ずさりできず、足がもつれて倒れたようだ。映像を拡大すると耳の穴から流血していることがわかる。
下記ツイートの全長版を見れば*1、倒れた老人を案じたのか近づく警官もいるが、同僚に止められて前進を再開し、別の警官が撮影を制止するまでが記録されている。
very much looks like the police just killed this old man pic.twitter.com/D7dDDcfFSy
— Josh Albert (@jpegjoshua) 2020年6月5日
この事件をニューヨーク州知事は明確に批判したし、警官2人が停職となったが、その処分に抵抗して緊急対応チームの警官57人が辞任したという。
CNN.co.jp : 75歳男性を突き倒した疑いで警官2人停職、57人が抗議の辞任 米
いずれにしても明確に警察権力が一方的な暴力をふるった風景が記録されたわけだが、抗議者にこそ問題があったという陰謀論をとなえる人々がいる。
もちろん大半は無視するべき少数意見にすぎないと思いたいが、米国大統領という現地の最高権力者が同調して公言しているのが厳しい。
デモでの高齢者負傷は極左の自作自演? トランプ氏が「陰謀論」 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
トランプ氏は「スキャナーを狙ったものだ」の他、グジーノさんは「装備をブラックアウトさせるために警察のコミュニケーションをスキャンしていた」とも書き込んだが、これらの表現の意味するところは明らかではない。
トランプ氏は、陰謀論専門の右派テレビネットワークでホワイトハウス(White House)のお気に入りになっているOANNが伝えたリポートを見てこのツイートを書いたとみられる。
このリポートでOANNは、「極左グループ、アンティファ(Antifa)の偽旗挑発」という見方を強調し、「新たに公開された動画」でグジーノさんが自分の電話を使って「警察のコミュニケーションをスキャンしようとしていた」と伝えていた。
黒人差別による直接的な利益がありそうにもない日本人にも、陰謀論を信じて流布する動きがある。
たとえば抗議者が警官を挑発してつきとばさせたというツイート。若林宣氏に反論されているように、まともな情報源は示されていないが。
一つのツイートに「だそうです」「いたとか」「らしいです」。断定部分は根拠を示さず。結論もなく思わせぶりなだけ。何の情報も紐づけされていない画像を添えたこんな文章でも、だまされる人はだまされる。 https://t.co/XzrrhTb3uc
— 若林 宣 (@t_wak) 2020年6月10日
また、他の角度からの映像をもって撮影者が「倒れた後も驚く様子もなく撮影」とも主張しているが、遠景なので拡大しても表情などはわからない。
行進を始める警官の列に老人が向かう。水色のシャツの男性(WBFOのレポーターという説あり)は老人が倒れた後も驚く様子もなく撮影を続けている。https://t.co/aBOKlnk57k
— Ki12in13eer (@ki12in13eer) 2020年6月10日
レンズをとおして情景を見ていると異常事態に感情がゆさぶられにくい、という戦場カメラマンの逸話もよく聞く。
流血自体がフェイクだという陰謀論も流れている。血のりを流すチューブが背中からマスクまでつながっているというのだ。
警官に押されて倒れたおじいさんも詐欺師だった模様。
— HungryCat (@OrangeBoxKitty) 2020年6月9日
赤い染料のチューブが後ろからマスクのコードにつながっています。左胸にスイッチがあります。
だから警察官もそのまま立ち去ったんですね。
押した警官が追及されて怒った警官50名程が辞職したと言ってる人もいました。https://t.co/w7bDHJckSS
もちろん実際に傷を負わなかったという主張は、抗議者が入院しているという報道と整合性がない。抗議者だけでは成立しない陰謀だ。
それに警官がつきとばさなければ血のりの細工は無駄になったし、多数いる警官のひとりでも抗議者を介抱すれば細工が明らかになってしまう*2。
警官隊が穏健な抗議者に暴力をふるい、警官の誰ひとりとして良心を発揮しないければ成立しない細工。そのような陰謀論は警官の擁護にはなりえない。