法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

「山口氏が合意の上のセックスだと主張している」ことが牟田和恵氏にとって「不利」と江口聡氏は主張していた

山口敬之氏と伊藤詩織氏が争った民事裁判で、地裁で伊藤氏が勝訴し、1100万円の求めに対して330万円の支払いが認められた。山口氏の反訴は棄却された。
伊藤詩織さんと元TBS記者の民事訴訟、「合意ない性行為」認め山口敬之さんに330万円の支払命令 東京地裁 | ハフポスト

「酩酊状態にあって意識のない原告に対し、合意のないまま本件行為に及んだ事実、意識を回復して性行為を拒絶したあとも体を押さえつけて性行為を継続しようとした事実を認めることができる」として、山口さんの不法行為が認定された。

山口さんは、ホテルから客室までは伊藤さんが支えられながらも自力で歩いたと主張している。部屋では、嘔吐した伊藤さんが謝罪を繰り返し、性行為を誘ったという。

一方、伊藤さん側は、自立歩行できない状態だったと反論。仮に伊藤さんが話したり動いたりすることができる状態だったとしても、酔って嘔吐を繰り返すような状態では正常な判断能力を持っていたとは言えないと主張している。

山口氏は控訴するようだが、すでに支持者が山口氏から離れる動きも出てきていて、はすみとしこ氏のような支持継続側から非難される光景を見かける。

はすみ としこ on Twitter: "「弱者・被害者ビジネス(かわいそうビジネス)」について思うところ https://t.co/lp3peNiayK… "
「弱者・被害者ビジネス(かわいそうビジネス)」について思うところ https://twitter.com/hasumi29430098/status/1207524066124427264

もちろん、はすみとしこ氏のふるまいは山口氏への支持というより、伊藤氏への誹謗中傷と呼ぶのが正確だろうが。


こうした動きを見て、牟田氏の科研費報告書における事件の記述を、京都女子大教授の江口氏が「嘘は書かないけど不利なことは隠す」と評したことを思い出した。
牟田先生たちの科研費報告書を読もう (4) – 江口某の不如意研究室

日本では、5月に、伊藤詩織さんが、元TBS記者の山口敬之氏からTV局での仕事を紹介するからと酒席に誘われて酔わされた状態で、ホテルに連れ込まれレイプされたことを実名で告発した(伊藤 2017)。山口氏は安倍首相の伝記本を複数著している首相ご用達ジャーナリストであるところから警察権力の介入によって逮捕を免れた疑惑さえある。しかしこの事件はネット上では拡散し詩織さんのサポートの声がひろがったものの、一般のTVや新聞等の大メディアはほとんど報道せず、現在のところ捜査が再開される様子も無い。

この文章には嘘はない、というかまあSNSで知られているそのままが書いてあります。でも、山口氏が合意の上のセックスだと主張していること、東京地検が嫌疑不十分で不起訴処分にしたこと、検察審査会でも不起訴相当と判断されたことは書かれていない。デュープロセスや推定無罪、疑わしきは被告の利益に、という非常に重要な原則についても論文全体を通しても触れられていない。

こうした「嘘は書かないけど不利なことは隠す」という態度と、権威の発言や文献を恣意的に使う、というのは密接な関係にあるように思います。

「警察権力の介入によって逮捕を免れた疑惑」がまさに「デュープロセス」の話であることはさておこう。


まず、加害を否認するという珍しくない反応は、わざわざ言及するべき情報だろうか。逮捕をまぬがれながら罪を認めるような特異性がないのに、加害側の主張を省略することはそれほど珍しいのか。
しかも先に引用したように、伊藤氏が酩酊していたことは争いがなかった。その状態で山口氏が「合意」を主張していることが、牟田氏にとってどう「不利」にはたらくのだろうか。


単純な話として、ひとつの事件が科研費報告書の主軸ではない以上、牟田氏は要点を記述しただけだ。牟田氏や伊藤氏に有利なことだけ詳細に書いているわけですらない。
たとえば週刊新潮に取材された山口氏が内閣情報官に相談した疑惑があることや*1、第三者のタクシー運転手が伊藤氏よりの証言をしていること*2などは言及されていない。
まさか江口氏は、山口氏に不利なことは隠しても良いというのだろうか。それが言及されていないことを江口氏自身が隠したことは恣意的ではないのだろうか。


そもそも牟田氏がどのような文脈で伊藤氏の事件にふれたのか、江口氏は理解できているのだろうか。
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科研費報告書から引用されているのは、「「同意」をめぐる発想の転換―性暴力をとらえる視角の拡充/見直しの必要」という章の、「告発女性への怒り」という小見出しの文章だ。
同じ小見出しから、江口氏が引用していない少し後の範囲を読むと、どのような文脈で伊藤氏の事件がとりあげられたかがはっきりわかる。

詩織さんも、山口氏擁護側からのバッシングを受け、TV等ではコメンテータが「芸能界ではよくあること」「仕事を紹介してもらうならそれくらい」と片付ける発言さえ飛び交っていた。

つまり江口氏が求めた「山口氏が合意の上のセックスだと主張していること、東京地検が嫌疑不十分で不起訴処分にしたこと、検察審査会でも不起訴相当と判断されたこと」という記述は、ほとんど文脈に関係ないのだ。
それとも江口氏は、求めた記述を根拠にすれば、「芸能界ではよくあること」「仕事を紹介してもらうならそれくらい」といった発言が正当なものになると主張するのだろうか。さすがにそうではあるまい。
仮に不起訴が妥当だったとして、被害のうったえ自体がバッシングされることの不当性は変わらないし、実際の被害者ならば被害をうったえないといった非難が難癖でなくなることはない。
科研費報告書に対して「嘘は書かないけど不利なことは隠す」という態度をとっていたのは江口氏なのだ。

*1:念のため、判明しているメールが短文ということもあり、あくまで一部の疑いの段階。山口氏自身は「父の友人というか知人の北村さんという方に(メールした)。これ以上は、その方にご迷惑がかかるので申し上げませんが、その方は北村滋さんとは全く別人の民間の方です」と否定している。山口敬之氏「政治家にも官僚にも一切、頼んでない」 - 社会 : 日刊スポーツ

*2:「詩織さんは当初、何度も「駅で降ろしてください」と話していたが、その後、ホテルに行く同意はないまま詩織さんが静かになり、ホテルで降りる時には自力で動けず、山口氏が詩織さんを抱えて降りたという」という証言が報道され、民事裁判でもとりあげられたという。詩織さん「デートレイプドラッグを」インタビュー1 - 社会 : 日刊スポーツ