法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

原爆によって日本が降伏したことが事実でなくても、原爆が日本の敗戦を象徴する図像となっている難しさ

先日から話題になっている*1、日本が敗北して韓国が独立した表象として、原爆のキノコ雲が選ばれたことについて。
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 イ代表は、問題となった原爆の写真について「その部分は、日本をばかにするような気持ちはなかった。原爆が投下され、日本が無条件降伏したために、韓国は解放されたという歴史の順序を表現するものだった」と伝えた。

思い出されるのが、架空の日本戦後史を題材にしたアニメ映画『人狼 JIN-ROH』のファーストカット。
「あの決定的な敗戦から十数年」と始まるナレーションにのせて切りかえられていく架空写真の、最初がキノコ雲だったのだ。

日本の敗戦をテーマとしたノンフィクションでも、表紙でキノコ雲が象徴的にあしらわれたものがある。


もちろん日本の敗戦を象徴する図像は他にも多数あるだろう。
しかし戦争で原爆投下が投下された唯一の国という固有性や、その直後に日本が降伏したこと、キノコ雲そのものの視覚的な強さから、少なからず日本社会でも敗戦の表象として選ばれてきた。
原爆によって日本が降伏したという神話が日本社会でも根強いこと自体、原爆が日本国内でも敗戦の象徴となっていることの証左だろう。


それでは、より実態に即しつつ、日本の敗戦を示せる表象が他にあるだろうか。
いくつか私案はあるが、そのひとつとしてマッカーサーヒロヒトのならぶ写真をあげたい。天皇が助かることを条件として日本が敗北を受けいれた歴史を象徴する。

昭和天皇・マッカーサー会見 (岩波現代文庫)

昭和天皇・マッカーサー会見 (岩波現代文庫)

元帥とはいえたかだか軍人が統治者となり、敗戦まで神と称していた最高権力者と横ならび。その写真の歴史的背景を知っていれば、その体格差がまるで大人と12歳の子供にも見える。


そして、まさにヒロヒトが最高権力者でありながら責任から逃れるためにも、原爆投下が利用された。戦争責任について問われたヒロヒト自身の発言にもあらわれている*2
天皇裕仁のワースト・オブ・クソ「思し召し」大会 - 読む・考える・書く

天皇は顔をこわばらせて、「そういう言葉のアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究もしていないのでよくわかりませんから、そういう問題についてはお答えが出来かねます」と答え、また広島への原爆投下について聞かれ、「この原子爆弾が投下されたことに対しては遺憾には思っていますが、こういう戦争中であることですから、どうも、広島市民に対しては気の毒であるが、やむをえないことと私は思っています」と述べた。(略)

要するに、あの戦争に関して自分に責任があるなどとはつゆほども考えていないのだ。

さて、日本人は原爆投下という表象のかわりに、諸外国を加害して日本を敗北へみちびいた表象を敗戦の象徴に選びなおせるだろうか。それがあらためて問われている。

*1:韓国で原爆を肯定することと、日本で慰安婦を侮辱することは対等ではない - 法華狼の日記

*2:引用内引用は「ハーバート・ビックス 『昭和天皇(下)』 講談社学術文庫 2005年 P.388-389」とのこと。また、引用時に太字強調は排した。