法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『藤子・F・不二雄のSukoshi Fushigi 短編シアター』ミノタウロスの皿/ウルトラ・スーパー・デラックスマン

スタジオぎゃろっぷ制作のOVAシリーズ第3巻。少年向けから大人向けまで、さまざまな藤子F短編を各巻50分2話でアニメ化し、冒頭に原作者のインタビューを収録。
レンタル開始されたのは1990年。いまだDVD化されていないようだが、レンタルから遅れて販売されたVHSやLDが今も流通している。


ミノタウロスの皿」は、宇宙で遭難したひとりの男が、ローマ時代の地球に似た星に漂着。現地人のズン類が家畜化しているウスを救おうとして、社会に介入しようとするが……
いかにも藤子F作品らしい歴史趣味と食人描写を混ぜあわせて、価値観の相対化をせまる物語*1。ほぼ内容は原作通りで、ウスと主人公の交流を増していたあたりは良いアレンジだった。
ただ細かいところで、ウスとズン類が会話できている描写があったのが残念。原作でも微妙なところはあるが、ウスとズン類の両方と主人公が会話できたのは、あくまで翻訳機を使っていたためとも解釈できた。ズン類がウスと会話できているのだとすると、人類が牛と会話できない地球とはニュアンスが違ってくる。
望月智充監督による絵コンテは、主人公のモノローグで時を止め、一人芝居させる描写が印象的。原作から多かったモノローグを、舞台劇のような魅力へと転化させていた。クライマックスのパレードも、あまりOVAとしては作画の良くないシリーズにおいては、背景動画を活用したりと力が入っていて、狂騒的な雰囲気がきちんと生み出されていた。
ただ、原作の主人公は『21エモン』と同じデザインで、外伝的な読み取りが可能なところも味わいを増していたのに、OVAのキャラクターデザインはニュアンスが反映されていない。もっとも、単発のアニメ映画化が1981年にあったきりで、TVアニメはちょうど1年後の1991年に始まっているので、外伝作品というニュアンスをとりこめないのはしかたないのだが。


ウルトラ・スーパー・デラックスマン」は、旧友の家へ行くことを押しつけられた男の悲喜劇。その旧友は超常の力に目ざめて、ヒーロー活動を始めていたのだが……
前期のTVアニメ『いぬやしき』を見ていて連想した作品*2。ヒーローの能力を持った凡人が暴走していく果てを描く。京都アニメーションで作画や演出を指導し、現在も一線で活躍している木上益治が作画を担当。ところどころ良いカットはあるのだが*3、高本宣弘監督の絵コンテのためか、映像のコンセプトがはっきりせず、全体の印象がさほど良くないのが残念。
内容は、やはり原作とほとんど同じだが、アクションを強化するためか、復讐者となった女性*4のパートが長い。あくまで現実の延長だった社会で、機関銃を個人が使用することには違和感があった。復讐に失敗した女性を主人公が助ける描写も長くて、どこまでも善良かつ気弱で無力だった原作と違って、ややヒーローのようなニュアンスが加わっている。

*1:さらに原作の発表前年に映画『猿の惑星』が公開されていることから、影響された可能性をkoikesan氏が指摘している。『ミノタウロスの皿』と『猿の惑星』『ガリヴァー旅行記』『猿婿入り - 藤子不二雄ファンはここにいる/koikesanの日記

*2:2017年秋TVアニメ各作品について簡単な感想 - 法華狼の日記

*3:アイドルへの性行為強要を邪魔されて、全裸のままベッドからフワフワ浮きあがるカットは、難しい遠近感を無理なくこなしていて、マヌケかつサイコな雰囲気があって良かった。

*4:原作では殺された恋人も犯罪者であり、あくまで正義の暴走の被害者だったのだが、OVAにおいて恋人はいいがかりをつけられただけの完全に被害者としてアレンジされている。