法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』友だちは大きなイルカ?/夢はしご

今回は今井一暁演出回で、前後とも映像が極めて良好。コンテは前半が楠葉宏三総監督で、後半が善聡一郎監督。


「友だちは大きなイルカ?」は、イルカに乗ったスネ夫に対抗したいのび太が、秘密道具をつかって海中で宿題をする。そこにイルカらしき鳴き声が聞こえてきて……
水の侵入を垂直にふせぐ秘密道具「水よけロープ」が登場。前半は原作のそのエピソードとほぼ同じだが、“イルカ”の登場から展開が変わってくる。前半に後半より尺をつかって、スペシャルなエピソードという気分をもりあげた。
物語はシンプルだが、秘密道具という小道具をつかって、現実にはありえない情景を楽しむSFとして充実。のび太が仲良くなる“イルカ”をシャチに設定することで、どこまでも人間に都合のいい自然賛歌でありつつ、野生動物との緊張感ある関係にも目配せできていた。人間側の一方的な野生への期待を批判するところまでは踏みこまないが、懐疑しつづけるスネ夫がアクセントとなって、クライマックスのサスペンスにも効果をあげた。
海中生物や波間を手描き作画でていねいにアニメーションしたのも良かった。海上にはねたシャチが水に落ちる俯瞰の作画や、近づいてくるシャチをロングショットでとらえた場面で散りゆく小魚の作画が、特に目をひいた。海中のカラフルな色設計も素晴らしい。


「夢はしご」は、ジャイアンスネ夫をやっつける夢を見たと公言して殴られたのび太が、秘密道具でジャイアンスネ夫を夢に引きこんで復讐しようとする。
物語そのものは、ほぼ完全に原作通り。前半に尺をつかったことで、アニメ化にあたってオリジナル要素でふくらませる必要がなくなった。たぶん今年度の『映画クレヨンしんちゃん』と同じモチーフだから選んだのだろうが、それで無理やり宣伝するような嫌味がない。
それで独自の見せ場がまったくないかというと、夢の中のスネ夫が原作以上に美化されていて大笑い。八頭身になるだけでなく、絵柄まで変わっている。のび太の夢に入ったドラえもんのへしゃげっぷりも可愛い。さらに、描写そのものは原作と同じでも、体をドラえもん化したジャイアンの出すネズミに巨大感あったり、のび太が見る夢の『スターウォーズ』的なディテールが緻密だったり、映像表現として強調。アレンジの効いた前半とはまた違った理想的なアニメ化だった。