選んだ基準は、近代国家として成立する以前の日本を舞台としているアニメ映画。
史実に忠実でなくとも、妖怪や精霊が登場しても、その時代の一側面を切りとっていれば採用した。
ただし時間移動する作品は除外したので、『映画ドラえもん のび太の日本誕生』等は入らない。
官邸の「日本の美」総合プロジェクトにおいて、津川雅彦座長が「天孫降臨」のアニメ化を主張していた件 - 法華狼の日記
あわせてお読みいただければ幸いです。
まあ、どのくらいの数のアニオタがそういう状況をセットできるかは別にして、
「日本趣味はまったくないんだが、しかし萌えオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、その上で全く知らないアニメの世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」
ような、政府の都合のいい妄想の中に出てきそうな外国に、クールジャパンを紹介するために見せるべき10本を選んでみたい(以下略)
各作品の枠外で公式サイトにリンクしたので、詳細な情報や映像はそちらを参照。
ただし枠外の文章は結末にふれているものもあるので、新鮮な気持ちで楽しむには、作品の鑑賞後に読むこと。
戦争と国家の犠牲にされた男女の苦しみを、不死の一団による呪詛へと変えて、王族へと報いる。
火の鳥・ヤマト編|アニメ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL
大和武尊の伝説と垂仁天皇の古墳伝説を、火の鳥という設定でつないだ作品。
ギャグ調で風刺した原作から、アニメはシリアス調へと改変。女装して暗殺する場面は、美少女に変装した原作とちがい、夜宴の暗さを利用。結末も、ギャグのような歌で王族を苦しめた原作に対して、火の鳥を手なずけた笛を鳴らしつづける。
地味な古墳時代を舞台にしながら、映像としても一級品。日本画のように淡い背景美術と、情報を削った画面構成が特色*1。対照的に、力をいれた場面もきわだつ。火の鳥が初登場する木漏れ日の鮮烈さは忘れがたい。
日本を代表する古典文学を原作として、日本を代表する監督が映画化。展開そのものは忠実に、現代劇として成立するよう換骨奪胎した。
映画『かぐや姫の物語』公式サイト
紫式部 源氏物語 : 角川映画
当時のいきいきとした自然と、はなやかな王朝の物語として、それぞれ素直に楽しんでもよい。
しかし御門は「私がこうすることで喜ばぬ女はいなかった」といい、光源氏は「私は何をしても許される身なのです」という。階級に定められたまま人道を踏みはずし、他者を人形としか考えられなくなった男たち。そうした原典の時代性をあえて抽出して、現代までつづく悲劇として完成した。
デジタル技術を活用して手描きの味わいを残しながら激しく動かす方針と、セル画の艶やかさを出すため局所的に動かす方針とで、映像表現も好対照。日本のアニメが目指した両極を比べられる。
美しいものを作ろうという欲にまみれ、それゆえ醜く堕ちていく男。過去の罪を病としてかかえて、彫刻へ没頭する男。その諸行無常な顛末を描く。
火の鳥・鳳凰編|アニメ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL
原作者自身が投影されたかのような物語を、原作者によって演出家の道を進めた監督がアニメ化。
地味な題材を補うように花弁や光沢をちりばめた作画で映しだされるのは、美を追及するがゆえに誇りを捨ててしまう愚かしさ。権力や権威にたよらないことを美と定義するなら、それらを懐疑する作品になるのは当然だろう。
陰謀で父を失い、人買いに騙され、奴隷となった姉弟の苦難をえがく。溝口健二監督の『山椒大夫』と同じ古典説話を題材とした貴種流離譚。
安寿と厨子王丸 - TOEI ANIMATION
東洋のディズニーを目指していた東映動画による、もう日本国内ではつくられないだろう大作。日本画のような端正な色彩と、平面的な画面構成、なめらかなアニメーションが特色。
基本的には、けなげな子供たちを描いた文芸作品。しかし、それゆえ当時の社会問題も背景としておりこまれている。人々が生きた歴史を描くということは、その光だけでなく闇をも見つめるということ。日本の観客が物語をとおして外国の歴史を知る時も、きっとそうではないか。
中国から来た戦士たちと、下剋上をねらう戦国武将たち。その悪意と善意に翻弄される少年へ、よるべをもたぬ名無しの侍がよりそっていく。
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どれほど凄惨で醜悪な光景であっても、それゆえの美を描きだすことが物語にはできる。血飛沫を飛びちらせ、あらゆる欲望を無に帰して、すべてが静謐な決戦へと収束していく。
アニメーターが魂をこめたアクション作画は、むろんそれだけで素晴らしい。クライマックスの中村豊コンテ作画は小気味よいが、そのボリュームはボンズ以外の制作会社では許されなかっただろうとも思う。
そしてその邦画最高峰の剣戟を成立させるため、物語は余剰をそぎおとしつづけ、国も皇も仏も価値を失っていく。日本であることの意味すら消えさる。ゆえに皮肉な時代劇批評としても成立していた。
不老不死の力をもつシシ神と、製鉄の燃料となる木々がいきづく森。そこをめぐる人と獣の争いに、タタリ神に呪われた少年と、犬神に育てられた少女が飛びこんでいく。
もののけ姫|ブルーレイ・デジタル配信|ディズニー
いわずとしれた和風ファンタジーアニメ。同時に、時代背景を綿密に考証して、さまざまな社会的な弱者を活躍させた歴史劇でもある。統治者の記録だけが国家の歴史ではない。反抗する者もふくめた、ひとりひとりの営みがそれぞれの国にある。
細部の濃密なディテールを基盤とすることで、戦国なりの秩序が生まれる直前の、混沌とした一瞬を力強く描きだした。
勃興期ながら完成されたCG技術と、それに負けない手描き作画により、映像も充実。こういう大作にして怪作が前世紀に大ヒットしたというのは、なんとなく作画アニメ好きとしては不思議に誇らしい。
『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』(藤森雅也監督)
事務員のミスで、難しすぎる宿題が忍者のたまごたちに出されてしまった。そこで子供たちは、戦争の裏にある陰謀を知ることとなる。
劇場版アニメ「忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段」公式サイト
どこまでもコミカルな子供向け作品でいてアクション作画ははげしく、入念な考証にもとづく戦術合戦が展開される。「デフォルメされた学校を描く」的な類型がアニメにあるとすれば、この作品はその代表といえるだろう。子供たちの感覚は現代人と変わらず、だからこそ戦国の感覚との衝突が胸に響く。
かなり史実を意識したゆえの地味な忍術が、外国で単純に楽しんでもらえるかどうかも見てみたい。
『せんぼんまつばら 川と生きる少年たち』(出崎哲監督)
みなもと太郎作品*2でも知られる、江戸時代の治水事業を題材とした作品。
せんぼんまつばら 川と生きる少年たち – 虫プロダクション株式会社|アニメーション製作と作品版権管理
娯楽性も高い教育映画のひとつ。鉄砲水の激しさや、水没した村ののどかさ、完成していく事業風景など、歴史劇として珍しい映像に満ちている。今回とりあげた作品で、最も素直に過去を賞揚していた。
だからこそ、要人が全ての責任をとった最期を、はっきり批判せず描いたことが印象に残る。『火の鳥 ヤマト編』で批判された悲劇の美化が、海外の観客に受け入れられるか、気持ち悪さが誘発されるか。
『伏 鉄砲娘の捕物帳』(宮地昌幸監督)
鉄砲持ちの少女は、江戸で白髪の青年と出会う。その青年こそ、民衆を恐れさせ、幕府に追われている半人半犬だった。
伏 鉄砲娘の捕物帳 | アスミック・エース
江戸時代の赤穂事件が室町時代を舞台とした仮名手本忠臣蔵となったように、南総里見八犬伝を生んだ事件が江戸時代にあったと逆算した架空史劇。遊郭に拘束された女性や排除されゆく少数民族の苦しみを、物語をとおして描きだす。
ただし映像で目を引いたのは爆発する江戸城くらいで、映画としては作画が弱い。監督が経験を積んだボンズなど、もっと他にいい制作会社があったろう。明確なレイアウトとカラフルな色彩設計で補っていたが。
「駄目だこのライトオタは。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。
念のため、このエントリはアニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本が発端の、はてな村の伝統芸能「オタ軽10」である。知らない人、忘れている人も多いだろうと考えて、原文をなぞるのは一部分にとどめた。
その伝統芸能を優先したため、必ずしも好みの映画ばかりではない。もちろん相応に楽しめて、日本の美をすくいとった作品を選んだつもりだが、アニメをよく見ているマニアには異論があるだろう。