法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第20話 相棒/第21話 還るべき場所へ/第22話 まだ還れない

第20話、ようやく地上に降りたった鉄華団。しかし待っていた蒔苗東護ノ介はアーブラウ代表の座を追われていて、ビスケットが宇宙に残した兄は苦悩したまま自殺していた……
モビルスーツ戦はないが、ぶれつづけていたクーデリアのキャラクターがかたまって当面の目標がさだまり、一方で鉄華団の実務を支えていたビスケットがゆらいで、ひとまず終着駅にたどりついたドラマとしては充実していた。
とはいえコロニー編の短い話数で、かなり稚拙な行動として描かれた反社会運動が、それなりに成功したと伝聞で語られて拍子抜け。せめて台詞だけでも説得力を出せるよう、切実ゆえの拙速さはあったが、相応の思索も熱意もある革命として描写するべきだったのでは。やはり鉄華団が訪れたドルトコロニーでの運動と、それが周囲のコロニーに波及するエピソードとで、もっと話数がほしかった。
それに計画が根底から崩れたことへの鉄華団のとまどいと、それでも進もうとするクーデリアの決意を描きたいなら、蒔苗東護ノ介をもっと序盤から重要人物として位置づけるべきだった。そうでないと重要人物でなくなったことへの衝撃がない。たとえば火星でギャラルホルンの動きを止めたり、コロニーの反社会運動に助言したり、主人公を手助けするかたちで何度もストーリーにからむくらいはしてほしかった。
もちろん蒔苗東護ノ介と対峙するにあたって、クーデリアが「勉強」したと語るのも遅すぎる。出発時に知識で勉強して、移動時に体験で勉強したということなら理解できたが、過去回の感想で書いたように、もともと不勉強なキャラクターとして一貫していた。


価値があるものとして敵味方を動かす当面の目標、いわゆるマクガフィンとして設定されたであろうクーデリア。なのに旅の途中で学びながら価値あるキャラクターとして育っていく展開をしては、原理的にマクガフィンとして機能しない。
実態として価値がないマクガフィンでも、『機動戦士ガンダムUC』のようにブラックボックス化すれば成立する*1。しかし成長を描くためには、最初は価値がないものだと視聴者に印象づけざるをえない。ならば成長するキャラクターと、マクガフィンのもつ価値を分離するしかない。
途中で同行者のフミタンを死なせる展開をするなら、たとえば病に苦しんでいる独立運動家のつきそいとしてクーデリアが同行していて途中で遺志を受けつぐとか。あるいは、旅の始まりにおいては、ハーフメタル採掘の権利書を運ぶ広告塔にすぎなかったと位置づけるとか。ふりかえって考えても、やりようはいくらでもあったはず。


第21話、今後の方針で悩む鉄華団と、若者を誘導しようとする蒔苗東護ノ介。そこに艦砲射撃が向けられ、カルタ隊が地球降下してくる。とりあえず当面の敵には対処すると腹をくくり、罠をしかける鉄華団だが……
鴨志田一の脚本に、大貫健一と大籠之仁のキャラ作画監督大張正己メカ作画監督という布陣で全編戦闘。風光明媚な島を舞台に、屋敷や空港という要所で敵味方の位置関係もわかりやすく、MS以外のメカも活躍。作画はもちろん濃厚で良かったし、モビルスーツの足元がひびわれるデジタル作画も効果的で、新鮮な戦闘描写が充実していた。
ここで敵が攻撃してきたため、鉄華団蒔苗東護ノ介につかざるをえなくなる展開も皮肉でいい。ただひとつ、モビルスーツに艦砲射撃が効かないという設定台詞に映像として説得力があればベストだったが、さすがにそれは無理だったか。
メインキャラの死も、その実務的な重要性を描きつづけてきたうえに、ここ5話ほどかけてドラマをほりさげており、その活躍に唐突さはない。一瞬に知恵をはたらかせて重要な仲間、それも直前まで意見が対立した人物を救ったという構成もよくできている。ただアバンタイトルで家族の現状を見せたのは露骨すぎるから、無くても良かったか。
あと、あいかわらず芝居がかっているカルタ隊の言動と、それをバカバカしいと考える少年兵の対比で、『機動戦士ガンダムZZ』を思い出す。あまり評価は高くないが、まとまりは良かったし、わりと好きな作品だった。


第22話、前回の戦闘を受けて鉄華団に沈鬱な空気が満ちる。前進しようとするのはクーデリアだけ。これまで団をひっぱってきたオルガも憔悴していたのだが……
土屋理敬脚本で、子供たちが仲間の死を飲みこんでいくまでを時間をかけて描いていく。これまで鉄華団も相手を殺してきただろうにという第三者の視点もあればわかりやすかったが、表層で戦死の悲劇を描きながら子供たちが病んでいく二重の悲劇性は悪くない。
特に、ミカヅキを武器としてあつかってきたオルガが、武器たるミカヅキに脅すように煽られて戦いをつづけざるをえなくなる展開が興味深い。いつか描かれるだろうとは思っていたが、予想以上にオルガのハリボテぶりとミカヅキのガランドウぶりを見せてくれた。オルガの行為が煽られたものと明らかにしていることから、仲間の犠牲をもって前進しようと煽る最後の演説も素直に受けとるべきではない。
蒔苗東護ノ介をカナダへ護送するという結論も、クーデリアの護送よりマクガフィンらしく成立していた。いっそ最初から火星に来ていた蒔苗東護ノ介を地球まで移送する物語でも良かったのでは。旅の途中はアーブラウ代表として大人物のようにふるまっていたが、地球についてから亡命していた立場と明かしたなら、より鉄華団とクーデリアの落胆がきわだったろう。