現実世界で不遇だった主人公が事故死し、それをあわれんだ神などから異世界で生き返ってやりなおせるチャンスをもらえるというWEB小説のパターンがある*1。その通称を「トラック転生」という。
『この素晴らしい世界に祝福を!』通称『このすば』は、そんなトラック転生をはじめとしたWEB小説のパターンを茶化したパロディ作品だ。導入からして、少女を守るためトラックにひかれて転生するんだと思いこんで、のろのろ遅いトラクターと気づかずショック死するという展開。第1話の段階では冒険の旅に出るどころか毎日土木作業に精を出す。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00998/v00614/
そのような文脈=コンテキストを読みとれなかったのかどうか、SF作家の野尻抱介氏が「少しは向上心持とうよ」と評価していた。
「この素晴らしい世界に祝福を!」はコンプレックスまみれの視聴者を徹底的にいたわった作品? - Togetter
もちろんパターンをそのままつかった他のWEB小説にしても、わかりやすい導入のシークエンスとしてつかっているだけで、本筋がはじまれば物語は変化していくものだろう。
当然のように野尻氏は批判されている。そもそも野尻氏自身も、ボーカロイドとニコニコ動画をモチーフにした小説『南極点のピアピア動画』で、作中に「とんとん拍子」という言葉を出すほど、あっさり困難を乗りこえる物語を展開していた*2。
さて、『このすば』自体は、ファンタジー世界をせせこましい日常ととらえたコメディアニメとして、かなりよくできている。比較的に映像の弱いスタジオディーン制作ながら、菊田幸一キャラクターデザインらしい、ラフで元気の良い作画を披露していて、なかなかアニメーションとしても楽しい。
そして金崎貴臣監督。肩の力のぬけたライトな作品を、雰囲気はそのままに手をぬかずにアニメ化する印象がある。OPにサブタイトルを入れる手法をよくつかう。そして『このすば』の5年前に手がけた『これはゾンビですか?』では、しっかり第1話で主人公がトラックにひかれるのだ*3。
これはゾンビですか? | バンダイチャンネル|初回おためし無料のアニメ配信サービス
ただしここで主人公はすでにゾンビとなっていて、不死身アピールのためトラックにひかれる。同時期に同じようにトラック轢死で不死身アピールをするアニメがあったから*4、なおさら印象に残っていた。
これを意識しての監督登板だとすればハイコンテキストぶりにふるえるが、まあ単なる偶然ではあろう。それでも“トラックにひかれて死なない”から“トラックにひかれないのに死ぬ”への逆転が笑えたので、とりあえず書いておく。