法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』ドラドラ時空(タイム)アドベンチャー のび太土偶の謎/ナイヘヤドア

アニメオリジナルの前半も、原作に忠実な後半も、今年の映画とモチーフが共通している。しかし映画宣伝では終わらず、それぞれ単独のエピソードとしても完成度が高かった。今井一暁演出回らしく映像も充実。


「ドラドラ時空(タイム)アドベンチャー のび太土偶の謎」は、ゴミを捨てる秘密道具に入ったドラえもんが、縄文時代の日本へタイムスリップしてしまう冒険譚。
原作後期の傑作「天つき地蔵」*1をなぞりながら、少しの変化で魅力をたもったまま換骨奪胎。冒険がどのように昔話となったかを描く歴史SFから、異常事態への縄文人の対応力を描く文化SFへと変化した。縄文人を善良だが敵対もする対等な存在として位置づけ、美化も嘲笑もしない目線が好ましい。
地蔵という既存の宗教とかんちがいされる原案に対して、こちらは時空の穴を信仰する全く新しい宗教が誕生する。カーゴ信仰のようなものだ。しかし高空の時空の穴をあけるため弓矢をつかったり、とりすぎないよう途中で穴をとじたり、ちゃんと当時なりに考えて行動しており、技術力だけではない文明人らしさがある。現代のゴミを工夫してつかう描写もバラエティあって楽しい。未来技術の残骸にたよりきっていないから、穴へととどく高台を建てたオチにも説得力がある。
事故で秘密道具に入った原案とちがって、まちがえて捨てた粘土細工を拾いにいくところもポイント。のび太も後半から冒険に参加する新展開と、のび太土偶が歴史に残るオチへとつながった。もっと描写をふくらませば誕生日SPにしても違和感なかったろう。
ひとつだけ文句をつけたいのは、0点の答案用紙を大凧にしてドラえもんが乗りこんだところ。反重力で浮かんでいる設定もあるとはいえ、129.3kgのドラえもんを浮かばせられるような大きさには見えない。予告映像で知っていたため心の準備はできていたし、オオワシとの戦いはアクションアニメとして魅力的だったのだが、ひっかかりをおぼえたのはたしか。あくまでオオワシの注意をひきつける役目なのだし、何も乗せない大凧でおどかすだけでも良かった。


「ナイヘヤドア」は、のび太がまた家出をしようとして、存在しない部屋をつくりだす秘密道具でアパートに入りこむ。
展開も台詞も風景も、ほぼ完全に原作を再現。そこに日照の変化を足して、時間の経過と部屋の寂寞感を強調している。ラーメンをひっくりかえす描写の細かさや、扉を閉めるようなワイプ演出、のび太がドアの影から友人を見る主観カットなど、他にも細かな映像のこだわりが見られる。物語を変えずにアニメ独自の魅力をつくりだせていた。
これはひさしぶりに前半と後半の時間配分を変えて、原作から足し引きする必要がなかったおかげでもあるだろう。