法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび太のダンボール宇宙ステーション

のび太が庭でダンボールを組みあわせ、宇宙ステーションごっこをして遊んでいた。しかしスネ夫の持っている天体望遠鏡と比べられ、馬鹿にされてしまう。
のび太ドラえもんと協力し、秘密道具「宇宙ステーション実験キット」でダンボールを強化。本当の宇宙ステーションとして打ちあげる。しかし宇宙空間で、小さなトラブルが大きな危機へと発展。
衛星軌道を舞台として、リアルな宇宙サスペンスがはじまる……


『映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記』の公開にあわせたらしい、アニメオリジナルストーリーの30分SP。
EDクレジットの「脚本たかはしあつし」でまさかと思ったが、やはり高橋敦史監督が、コンテ演出のみならず脚本まで担当していた。しかもツイッターを見ると今回が脚本家デビューでもあるそうだ。

取材協力としてJAXAの名前があったが、特別な考証クレジットはなかったことから、おそらく脚本家段階で無重量状態や軌道遷移の考証も手がけたのだろう。


まずは前半、無重量状態で麺にからみつくスープ、栓を開けると噴出してしまうサイダー瓶、ダンボールの隙間からもれて凍りつくサイダー滴……宇宙空間ならではの地上と異なる光景が連続し、その物珍しさが素直に映像として楽しい。
そして後半、スネ夫たちも宇宙ステーションをつくって上昇してから、サスペンスにあふれた救出劇がはじまる。重すぎたため、楕円軌道になってしまったスネ夫ステーション。定期的に大気で減速してしまうため、スネ夫たちは降下していく。
救うために接近しようとするドラえもんステーション。しかし速度をあげるだけでは、軌道があがって飛びこえるだけ。追いかけるためには、速度を落として低い軌道をとらなければならない。感覚にそぐわないロケット噴射をしなければならないわけだ。そのもどかしさがサスペンスをもりあげ、思い通りにならない宇宙の怖さを表現する。
そして前半の無重量描写が伏線となり、宇宙服で命がけの救出がおこなわれる。結末もドラマの発端を受けたオチで、まとまりがいい。


純粋にジュブナイル宇宙サスペンスとしても、ドラえもんオリジナルストーリーとしても、素晴らしい内容だった。
緻密な科学考証がそれだけで終わらず、娯楽活劇をもりあげる基礎となっている。感覚に反した衛星軌道の挙動が大きな誤りもなく映像化され、説明もわかりやすい。
考証以外でも、ささいな描写が伏線として機能し、キャラクターの言動も違和感がない。秘密道具で脱出できない理由もドラえもんらしい展開で処理。秘密道具で宇宙ステーションを制作する描写の手づくり感も、原作らしい雰囲気が出ている。これが単独の初脚本とは思えないほど完成されていた。
やや絵柄の癖はあったが、作画も全体として良かった。宇宙空間のクッキリした光源演出や、3DCGで流れていく地球も美しい。映像の良さは、さすが高橋敦史回といったところだ。