法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

吉見義明教授をひとことで批判しようとしている池田信夫ブログについてひとこと

吉見義明教授と林博史教授が外国特派員向けに記者会見をおこない、日本でも少数のメディアがとりあげている。
従軍慰安婦問題、強制性はあったー吉見義明教授・林博史教授が海外メディアに訴え (1/2)

私たちは、河野談話をさらに発展させるような措置、すなわち河野談話の公表以後に明らかになった資料・証言や内外の調査・研究の成果を反映させ、国連の社会権規約委員会、自由権規約人権委員会、拷問禁止委員会、女性差別撤回委員会など、国際人権機関による慰安婦問題に関する勧告を踏まえた積極的な措置を求めていくことを表明します。

基本的には安倍政権の河野談話「検証」が文言調整に対してのみ非公開でおこなわれようとしていることを批判し、河野談話発表以降の歴史研究の成果をふまえた新たな行動を求める内容だ。


これに対して、池田信夫ブログで批判エントリが書かれていたのだが。
池田信夫 blog : 吉見義明氏の「小保方論法」

もうこの話は取材もお断りしているのだが、また嘘をついている人がいるので、ひとことだけ。

根拠に自信があるなら検証を歓迎するべきではないかといった批判は、記者会見全体を報じる記事とてらしあわせると的外れだ。関与した証拠しかないとか強制連行だけが問題だとかいった批判も、上記BLOGOS記事内で「慰安所での強制・拘束」に吉見教授が言及していることから認識の遅れが明らかだ。


そして、日本政府を訴えた原告だから証言に証拠能力がないという珍説を披露した後、強制を否定する資料的な根拠を示そうとしているのだが。

彼らの「発見」した1938年の陸軍省副官通牒には「募集等に当りては派遣軍に於て統制し…」と書かれている。募集というのは自発的に応募するもので、強制ではありえない。
証拠もなしに「私は信じている」ということだけを根拠に正当性を主張するのは、データも見せないで「200回成功しました」という小保方氏と同じだ。吉見氏の場合は自分の主張を反証する文書を見せているのだから、ほとんど病気である。彼のように20年以上も嘘をつき続ける研究者がいるのだから、小保方氏が2ヶ月ぐらい嘘をついても不思議ではない。

流行の話題に便乗しようとして滑っている。吉見教授が発見した副官通牒は日本政府が否定していた関与を裏づけ、さらに日本軍が要求していたことを明らかにしたことが要点だ。もともと狭義の強制連行の証拠とは異なるあつかいだった*1
しかも現実には、戦前の公文書や小説で「強制募集」という文言が確認できるし、現在でも報道記事や辞書にまで使われている。募集という言葉が使われていることは、強制を否定する根拠にはならない。
「強制募集」は新概念や新造語ではなく、従軍慰安婦問題に興味があれば知っておくべき言葉 - 法華狼の日記
もともと言葉は生物だし、戦前に書かれた資料が現代の言語感覚で読めるはずがない。しかも加害側の資料なのだから、表面だけおだやかな文章であったとしても、それを額面通りに受けとるほうがおかしい。
むしろ単語ひとつで専門家の意見を否定しようとすることこそ、歴史学の蓄積を愚弄することだろう。

*1:統制が必要になるほど狭義の強制連行がおこなわれていた根拠として使われることはある。