法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

政府権力がデモをテロとみなす危険性が理解できない人

大屋雄裕教授*1の、テロとデモについてのエントリにも応答しておこう。
リアリズムと陰謀論(3・完) - おおやにき*2

絶叫デモとテロの関係について何を言われたかということが法華狼氏はまだ一向にわかっていないらしいので、その点のみ一言する。

要するに「デモと自称していてもテロであって社会的に許容できない例」を少なくとも一つ示すことによってデモとテロはまったく相容れないという全称命題を否定し、テロと区別できるデモの条件を示す議論に移行せよというのが私の議論の意味だが、12月10日付「[ネット][報道][身辺雑記]言葉にできない抗議のかたち」を読むとわかる通り、法華狼氏はそのことがまったく理解できていない。テロと到底言えないデモが存在することなどは当然であって、良いものであれ注目すべきものであれその実例を挙げても全称命題の否定を覆すためには何の意味もない。

はてさて「デモとテロはまったく相容れないという全称命題」がどこから出てきたのか。そのような全称命題を用いずとも、石破幹事長の発言を批判することはできる。
もともと絶叫デモを石破幹事長がテロと本質的に同じとみなし、それに大屋教授が同調したため、下記エントリで私が批判したのだ。
「デモなどで「現在の国民の意思」を表明し、政策変更か早期の選挙を実現するように圧力をかけてもよい」「「絶叫デモ」に限定すればテロと似たところはあるかも」どっちだよ - 法華狼の日記

ほんの数日前、押しかけて圧力をかけるような「デモ」を肯定していたのは何だったのか。さらにいえばデモを許容できるかどうか政府権力が判断すること自体に、さまざまな危険性がある。

ついでにデモ一般を在特会の街宣行為と同列に論じているのも、不見識だろう。そうでないというなら、在特会に対する批判が、どれほどデモという社会運動全般への批判に通じるか、きちんと論じる必要がある。

一方的に議論を移行せよといわれても、まず過去に大屋教授がおこなった主張を撤回してもらわなければ困る。大屋教授個人の問題意識で議論や考察を深めるのは自由だが、撤回されない主張に対して私が批判を継続することも自由だ。もちろん、きちんと論じていくことで、過去の主張の正しさを示していきながら議論を移行していけるならば、そうすればいい。
そもそもデモとテロが国家権力によって同一視されることは過去から現在までよくある話だ。だからこそデモの妥当性が個別に問われなければならないわけだし、テロといえないと大屋教授が認めるようなデモであっても国家権力が弾圧する事例を引いたのだ。
そして大屋教授のいう「デモと自称していてもテロであって社会的に許容できない例」が何かというと、下記の主張になるわけである。これを「テロと区別できるデモの条件」の基準にできようはずがない。
認められない人たち - おおやにき

説得や意見表明を離れたデモにテロに似たところがあるという石破幹事長発言には一定の正当性があるということになる。

また、あらためて指摘しておこう。主観的には絶叫であっても主張していると石破幹事長も認めていたのに、説得や意見表明を離れたデモへと大屋教授は話をすりかえている。


そして大屋教授は私が反論しうる選択肢を示しているのだが、私の文章を読んでいないのかと首をかしげる内容だ。

法華狼氏が選ぶことのできた一つの対応は、まず「自称デモ」でも有形力の行使を伴うなどテロと言わざるをえないものがあることを認めつつ、その境界線として物理的な暴力を提案し、絶叫であれ単純な繰り返しであれ音声はその「物理的な暴力」に当たらないので石破氏の発言は誤っている、と主張することであっただろう。

もともと「絶叫デモ」に限定してテロと同一視していたのに、なぜデモ全般の話へすりかえているのだろうか。

もちろんただちに私からは耳元で大声を上げたことが刑法上の暴行とされた事例が紹介されることになっただろうが、なおそこにはレベルの差があるとか、現に刑事取締りに至っていない今回の法案反対デモはやはりテロと呼べない、などと反論する余地があっただろう。

現に取り締まられていないことは、大屋教授が言及しているエントリでも、frothmouth氏に対して下記のように明記していた。

usi4444氏に「国会の周りには大勢の警官がいたのに、条例違反を取り締まわなかったの」と指摘され、国家権力すら暴力的な音量とみなさなかったことを認めたようだ。
石破幹事長がテロと同一視したデモが枠内で保障された範囲と認めたということは、つまり大屋教授のエントリが事実上の誤りと認めたということだ。

その上で、国家権力によって取り締まられることを無批判に追認することの危険性を私はうったえたわけだ。

*1:ツイッターアカウントは[twitter:@takehiroohya]。

*2:引用字、大カッコを半角から全角へ変更し、リンクしているURLを個別エントリのものへと変更した。