法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

言葉にできない抗議のかたち

先日、音量の感想だけでデモ全般を在特会と同一視できるかのように大屋雄裕教授*1が主張し、私が批判した。
認められない人たち - おおやにき*2

仮に「デモ」に集まった人々が議会の物理的な封鎖によって議決を不可能にすることを目的にしていたり、あるいは多数派議員に暴力を振るうことで恐怖状態に陥れ・少数派の実力行使に抵抗できない状態を実現しようとしているのであれば、それは少なくともデモクラシーに反する行為であるし、後者に至ってはテロルそのものだということになろう。その意味で、説得や意見表明を離れたデモにテロに似たところがあるという石破幹事長発言には一定の正当性があるということになる。

デモによっても多数派の意思を変えることができなかった自称「人民」にデモクラシーの枠内で保障された制度はそれだけなのだから、そこで努力したらとしか言いようはないのである。

もともと「仮に」から「その意味で」までの流れを見ると、大屋教授は仮定と事実の区別ができていなかった。相手に論理的な帰結を引き出すよう願う前に*3、最低限の論理性をそなえた主張をするべきではあった。
もちろん私は石破幹事長の発言が主観を根拠にしたものでしかないことを指摘した。
陰謀論を認めさせたい人たち - 法華狼の日記

実際の文章を読めばわかるはずだが、石破茂幹事長の主観においてすら「単なる絶叫戦術」としか書いていなかった。否定する根拠は「多くの人々の静穏を妨げる」といった音量の感想のみ。

この私のエントリに対する意見として興味深かったのが、はてなブックマークid:frothmouth氏によるコメントだ。
はてなブックマーク - 陰謀論を認めさせたい人たち - 法華狼の日記

(・∀・)つ 静穏保持法/暴騒音条例に基づく停止・中止命令 http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/air/noise_vibration/rules/index.html 韓国だと70db以上で逮捕/id:usi4444プロは69dbでキッチリ抑えるらしい、スゴイね!(韓国話) 2013/12/08

もっとも、はてなブックマークでusi4444氏に「国会の周りには大勢の警官がいたのに、条例違反を取り締まわなかったの」と指摘され、国家権力すら暴力的な音量とみなさなかったことを認めたようだ。
そして、石破幹事長がテロと同一視したデモが枠内で保障された範囲と認めたということは、つまり大屋教授のエントリが事実上の誤りと認めたということだ。
もちろん大屋教授は、さすがにfrothmouth氏ほどわかりやすく弾圧を肯定はしていなかった。抗議を受けた対象の「政府権力」が判断することと裁判所などの「国家権力」が判断することをすりかえたりと、詭弁で対応していた*4。しかしfrothmouth氏は、外形的な基準でデモが規制されている現状を無批判に引くことで、大屋教授の「本音」を浮きあがらせたわけだ。


そもそも枠内で保障された制度で努力するとは、どういうことだろうか。
たとえば韓国では蝋燭を灯して行進する、「キャンドルデモ」*5という伝統的な手法がある。同種のデモは米国などにも存在していたが、外形的な基準で規制されることへの対応のひとつだ。外形的な規制をされることによって、主張を言葉にのせて主張することが困難になること。そうした弾圧に対する抗議として選択される無言のデモ。外形的な基準は容易に弾圧に利用されるし、意見の表明をさまたげる。しかしそれゆえに不同意を表明すること、意見の表明がさまたげられていると示すこと、それ自体もデモの意義のひとつであり、正しい行動なのだ。
言葉というかたちをとっていない抗議活動は、歴史的にはインドでおこなわれた塩の行進が有名だろう。
NHK高校講座 | 世界史 | 第35回 中国の現代史 〜解放から開放へ〜

1930年、ガンディーは、「塩の行進」を行います。
当時、生活に欠かせない塩の製造・販売は、イギリスが独占し、高い税金をかけていました。
ガンディーは これに反対し、海岸までおよそ380kmの道のりを歩いて、海水から塩を作ります。

最近でもベラルーシで2011年に拍手をつづける抗議デモがおこなわれ、弾圧された。
ベラルーシの「拍手デモ」を警官隊が鎮圧、「蜂起を夢想するな」と大統領 写真6枚 国際ニュース:AFPBB News

 ベラルーシ独立記念日にあたる3日、ソーシャル・ネットワーキング・サイトの呼びかけに応じてミンスク駅前の広場に集まった人々は、拍手を続けることでルカシェンコ大統領への不満を示した。

 現場で取材していたAFP特派員によると、警官隊は集会を解散させようと催涙弾を発射。広場周辺の脇道へ逃げながら拍手を続ける人びとを追いかけ、老若男女を問わず、拍手し続ける人びとに殴る蹴るの暴行を加えた上、身柄を拘束した。報道カメラマンらを含む数十人が警察車両で連行されたという。

そしてベラルーシは2013年にイグ・ノーベル平和賞を受けた。街頭での拍手を違法化したためだ。
イグ・ノーベル賞、「タマネギ涙」の謎に挑んだ日本人も受賞 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

・平和賞
 公共の場で拍手をすることを違法としたベラルーシアレクサンドル・ルカシェンコ(Alexander Lukashenko)大統領と、腕が1本しかない男性を拍手をした罪で逮捕した同国の警察が共同受賞。

ちなみにベラルーシでは無選挙で独裁体制が維持されているわけではない。形式的な選挙はおこなわれ、大統領が圧倒的な信任をえつづけている。「デモクラシーの枠内で保障された制度」を前提視することの危険性だ。
大屋教授のいう「デモクラシー」が独裁国家のそれと変わりないことを、根幹を抽出することでfrothmouth氏は露呈させた。さらに下記のコメントを読むと、frothmouth氏の考える「現在の参加型デモクラシー」も、独裁国家のそれと大差ないのだろう。
はてなブックマーク - 認められない人たち - おおやにき

法華狼さんみたいに現在の参加型デモクラシーに納得できないっ、て人が増えるようなら審議調査や審議デモクラシー導入も考慮にいれるべきなのかもしれないが、今回のデモ騒ぎを見るとそれもあんま意味なさそう 2013/12/08

そして日本が独裁国家となって反政府活動を弾圧した時に大屋教授がどうふるまうか、それは大屋教授自身のツイートで明らかになっている。
もはや人間の言葉が通じない - 法華狼の日記

*1:ツイッターアカウントは[twitter:@takehiroohya]。

*2:強調は原文ママ

*3:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20131207/1386435280の末尾で引用したツイートを参照。

*4:その詭弁は大屋教授へ応答するエントリで反論しておいた。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20131207/1386435280

*5:むろん手法の巧拙や結果について、賛否さまざまな意見がある。参加経験のある[twitter:@do_teino]氏のエントリは参考になった。http://notarin.exblog.jp/10399273/