ニシクボ「ウエダがサイバスターを監督したようだな」
マシモ「ククク、奴はタツノコ四天王の中でも情(けに)弱(い)」
オシイ「敗戦処理をひきうけるとは商業監督の面汚しよ」
擬人化された野菜たちの股旅物。1999年にはじまった絵本シリーズを原作として、東映アニメーションが2008年に制作した。
別会社からスペシャルなアニメーターが集まった前番組『ガイキング LEGEND OF DAIKU-MARYU』ほどではないが、もっとシンプルに作れるところで力を入れ、アニメとしての魅力が生まれた。二頭身のキャラクターデザインからは想像できないほど、きちんとしたチャンバラ時代劇らしい殺陣を見せる。
傑作と聞いていたのだが、序盤は普通の子供向けTVアニメ。NHK教育が幼児向けに放映しているような作品といえばわかりやすいだろうか。桃色装束の女忍者が登場したり、ネギ坊主の主人公が口からネギ汁を飛ばす必殺技を使ったり、予想していたよりリアリティレベルが低かった。野菜が時代劇をやっているシュールな絵面以外は面白味が少ない。
評価が変わったのは、うえだひでひと監督が演出として登板してから。実の娘を追う侍の執念の物語を題材に、かつてタツノコ四天王と呼ばれた名演出家が底力を見せる。波打ち際の決闘を望遠レンズでとらえた殺陣など、それまでとは段違いのリアリティある格好よさだった。
うえだひでひと回を皮切りに、ぐっと物語も力強くなる。主人公の父探しという縦軸に、娘さがしを続ける男という横軸がよりあわさり、親子の絆の回復という主軸が完成した。そして盗賊団との対決という大きな戦いへ移行していく。
主軸がしっかりしたからこそ、バラエティある物語も展開できた。
趣向が印象深かったのが第40話。雨をさけるため泊まった宿を舞台として、グランドホテル形式の物語を手堅く見せた。さまざまな登場人物の内面が明かされる展開はありきたりかもしれないが、TVアニメの1話で展開したため内容は濃密だった。
また、二期ED主題歌を担当した歌手が第34話で元芸者の声優もつとめ、敵の親分すらほだされる気風と歌唱力を披露した。声優の歌唱力と演技力が重要になるが、それが堀江美都子では納得せざるをえない*1。
うえだひでひと演出も話数を重ねるたびにさえわたる。最後に登板した第45話では、原画にもクレジット。農村へ根を下ろした元侍を事実上の主人公として、様々な価値観の葛藤と昇華を描いていった。時代劇らしい所作も完璧。他の演出家も力をふるう終盤において、さらに異次元の演出力を見せた*2。
そして最終話、股旅物らしく様々な別離を描いて、物語は閉じられる。父探しは途中で後景化したため、主人公と父親は正面から対面することはない。しかしそれが逆に、主人公が成長して父親と対等になったのだと感じさせた。