法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ズッコケ三人組 ズッコケ時空冒険』

花山第二小学校に、主産中の代理として若い女性教師がやってくる。壁新聞の取材で女性教師を追いかけた主人公トリオは、ふしぎな鏡にとりこまれ、江戸時代にタイムスリップしてしまった……


人気児童小説シリーズを1988年に約1時間で中編OVA化。特殊な流通形態で販売され、映像ソフトはVHSしか存在しないようだが、運良く鑑賞することができた。

ズッコケ三人組~ズッコケ時空冒険~ [VHS]

ズッコケ三人組~ズッコケ時空冒険~ [VHS]

  • アーティスト:那須正幹
  • 発売日: 1994/11/21
  • メディア: VHS

タツノコ四天王と呼ばれた演出家うえだひでひとが監督し、主にタツノコプロダクションの下請けとして活躍していたタマプロダクションが制作。
絵作りはかなり良くて、当時では珍しくアニメーターの暴走を抑えつつ、原作を尊重したつくり。キャラクターデザインは原作にそった絵柄をつらぬき、背景美術も定規をつかわない柔らかい線と淡い色彩で挿絵らしさがある。
アニメとしての見どころも多い。モブをちゃんと作画で動かしているし、俯瞰やロングショットをまじえたコンテも映画的。背景動画も短めだが数が多くて質も良く、カメラワークに見ごたえがある。


しかし物語はまったく感心できなかった。原作の風刺性や毒気をぬいてマイルドにしているのは許すとしても、それが物語の面白味や独自性まで失わせてしまっている。

原作シリーズから『とびだせズッコケ事件記者』の要素を前半、『ズッコケ時間漂流記』の要素を後半に配置して、美人教師の謎解きを主軸に再構成。前半は原作にないキャラクターをまじえた三角関係の新味はあったが、後半の歴史やSFの考証設定はいただけない。
たとえば主人公トリオは江戸時代で平賀源内に出会うのだが、そこでエレキテルが発明品として紹介される。原作では、あくまで源内はエレキテルを修理しただけだと正確に説明されているのに。田沼意次などを語る江戸の世相描写もない。
主人公トリオが岡っ引きに追われるサスペンス展開が史実における源内の奇行を解明する歴史SFの妙もない。アニメ版でも主人公トリオは追いつめられるが、いきなり出てきた女教師のUFOに助けられ、放置された源内はそのまま物語からフェードアウト。
そして女教師は原作とまったく異なるタイムパトロールという正体を明かす。『ドラえもん』などでおなじみの設定だが、なぜ主人公トリオの時代にやってきたのか、主人公トリオを時間移動させてしまってタイムパラドックスは起きないのか、といった疑問は説明されない。主人公トリオに教師らしく文明の問題などを語るのだが、まったく物語の流れと関係なく、とってつけたような説教でしかなかった。
原作では女教師はきわめて個人的な目的をもって行動しており、時間移動装置も完全に制御はできない設定だ。トラブルが発生してもおかしくないし、収拾するために時間がかかっても違和感がない。それでいて戦争の苦難に直面した人間として、主人公たちに歴史の痛みを教える描写に説得力があった。


時代にあわなかった技術者の悲劇という源内の物語が、そのまま女教師の直面した戦争の痛みに重なるテーマが、原作ではつらぬかれていた。その一貫性がアニメからは消えている。
映像に見るべきところは多いが、物語は悪い意味で子供だましになったという印象。たぶん子供にとっても説教くさく、それでいて知的好奇心を刺激されない作品になっている。