前回の次回予告を見て、てっきり原作の冒険譚をふくらましたものかと思えば、アニメオリジナルの前半と、原作短編を大きくアレンジした後半だった。そして、今回は作画こそ悪くなかったが、ひさしぶりにリニューアル後でダメなパターンのアレンジだ。
前半は、アニメオリジナル秘密道具「ジケン爆弾」を使って、単調な夏休みの絵日記に波乱を起こそうとする。
スイッチを押すと事件の発生が予告されるようになり、時間内に赤と青のコードのどちらかを切れば危機が去るが、間違って切ると爆発とともに予告通りの事件が起きるという。
事件が起こる確率を半分にしてくれる秘密道具かというと、さにあらず。実は秘密道具が勝手にサスペンスを作り出すという、一種の未来ゲームだったのだ。ジャイアンが意味もなく母親に何度も追いかけられている描写が、くり返しギャグであると同時に、ミスディレクションとしても機能していた。
回避できた数少ない危機が、めくれたスカートの中を見てしずちゃんに怒られるという内容で、回避することでパンツが見えない残念さもうまい。単純な機能の秘密道具から多様なパターンの危機を展開して、時間いっぱい楽しめた。
演出も見所が多い。事件を始める導入部だけでなく、冒頭で日差しが差し込む部屋や、途中で出会ったスネ夫が駄菓子屋でアイスキャンデーを食べていたり、映像でも季節感がよく表現されていた。落ちたアイスキャンデーが砕けて「ハズレ」の文字が出てくる暗喩表現なども、ベタな演出ながら細かくて効果的。
後半は、これも娯楽専用の秘密道具が登場。超巨大なゲームブック「火竜の冒険」に入って、ハイファンタジー世界の冒険を楽しもうとする。楠葉宏三総監督が今回はコンテだけでなく脚本も手がけているが、全く評価できなかった。
まず、しずちゃんが囚われの姫様役となって最後の頁で待ち、のび太と出木杉が冒険を始めるところまでは同じ。原作と同デザインのスフィンクス系モンスターが謎解きをしかけてくるというアレンジも、ちゃんと神話を反映していて悪くない。しかし冒険を始めた序盤のモンスターが、宝の存在を教えないところから、大きく展開が異なっていく。
一見して役に立たない宝が、後で様々に利用できるようなひねりはない。恐ろしげだったスフィンクスも、まず可愛らしい子供スフィンクスが登場して、謎解きをしかけてくるだけ。最後のドラゴンを倒せるアイテムは、ここで正解するだけで全て入手できる。
原作のサブタイトルが「冒険ゲームブック」なのに、「大」と称してアニメ化しながら、明らかにスケールが小さくなっている。トンチを使ってスフィンクスを切り抜けたり、ドラゴンの火を防ぐために必要な装備を整えていくような、過程の面白味が全くない。ジャイアンやスネ夫を出さずとも、原作で過程ひとつひとつを1コマずつで説明された出木杉の活躍を、きちんとアニメとして描けば、30分いっぱい楽しめる中篇冒険記にアニメ化できたはず。短編の尺しか使えなくても、クイズで時間をとるよりは原作再現を優先してほしかった。
リニューアル後の『ドラえもん』は、映画でこそ冒険の過程を省略する短所があったが、TVアニメでは冒険の楽しさを充分に描いてきた。今回はそれがない。