法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

実写の殺陣はアニメに勝てない……かもしれない

その道の専門家3人を集めて濃密な鼎談をさせるNHK総合番組『DEEP PEOPLE』で、今週は殺陣師の特集をしていた。
http://www.nhk.or.jp/deeppeople/log/case0620/index.html
登板したのはNHK大河ドラマで活躍する林邦史朗*1東映で活躍している清家三彦、殺陣をつけられる側の俳優である松方弘樹
特に興味深かったのは、とにかく殺陣では刀を当てないよう注意するという、当然といえば当然な安全面への注意。

トークは、刀を当てない振り方について始まった。時代劇で使う刀は木でできた「竹光」。それでも身体に当たると大変なケガにつながることもある。殺陣師がまず気をつかうのは安全。刀の先が人の方を向かないような振り方を役者に教えていく。また刀同士が当たると、刀身がへこみ、アップで写せなくなる。下手な役者ほど力が入って、刀を当ててしまうという。

番組では、刀と人間の距離をとりつつカメラ位置と演技でごまかす手法を映像で解説していた。
比べてみると、しょせん絵にすぎないとされるアニメは、だからこそ実際に人間の身体へ刃を食い込ませる描写ができる。実写映画で同様の演出をするには、何らかの特撮を用いるしかない。映画『ストレンヂア 無皇刃譚』のように、刀と刀が当たることによって起こる刃こぼれや刀身の曲がりを、演出として描くことも可能だ。
むろん、アニメで身体性を獲得することが、いうほど容易な話ではないこともわかっているつもりではある。ひとくちに絵といっても、通常のアニメでは、静止した背景美術と動きのあるセル画は制作過程から質感にいたるまで大きく違うことも確かだ。しかし実写もまた、傷つけることが許されない俳優や贋物を用いるがゆえに、殺陣のような場面ではフィクションがいりまじり、ごまかすような映像にならざるをえない。
ほとんどが絵であるがゆえに、現実とつくりごとが入り混じる実写と比べて、アニメは描写されることを同一の地平で制御しやすいのではないか、ということがいえないだろうか。

*1:初めて殺陣をつけた大河ドラマとして『太閤記』の映像が少し流れたが、戦場にカメラをそのまま入れたようなリアルを追求したというだけあって、手振れカメラで俯瞰気味に乱戦を映していた演出は今の目で見ても新鮮だった。