表現主義的な色指定や、特殊な背景といった効果でこけおどしをせず、ていねいにカットを積み上げていって映像の厚みを増していく。そんな演出こそが本来の出崎演出だったのではないかと思える回*1。後付けの撮影効果ではなく作画段階からキャラクターへエフェクトをかぶせることを意識したコンテが見られる。シャワーをあびながらうつむく矢吹のロングカットが代表だ。
第22話以来の、崎枕名義の出崎統監督による演出担当回。正直いって作画も演出も盛り上がりそうで突き抜け切れなかった作品が、この第36話以降の監督三連続演出登板によって、一気に伝説へかけあがることとなった。ちなみに第37話では、走る矢吹を正面からとらえたカットで波ガラスによる撮影効果を行っている。
今回以降の物語で面白いのは、クロスカウンター対策の秘密特訓をして自信満々だったウルフ金串が、いざリングにあがって矢吹側も秘密特訓をしていたと知った途端に自信喪失するところ。互いの必殺技を出す前からテクニックで負けそうになる試合展開にいたっては、試合直後から始まる転落人生を予期させる。