金曜ロードショーで放映されていたものを録画して視聴。上映時間が90分だから、ほとんどノーカットだろう。
テロ事件の背景には深く踏み込まない、あくまで政治アクション映画といったところ。たいしてメッセージ性があるわけでもないが、報道、警察官、SP、大統領、民間人と様々な立場に視点が等分されているので、1人が極端に英雄視されることがなく見やすかった。
8人の視点でテロ事件を描くというが、時間軸を戻しながら単独視点で描いていくのは前半まで。後半は普通に多視点で物語が展開される。前半に謎と伏線をカットバックで散らばせて、後半に少しずつ解いていくという構成と考えれば、そう珍しいことをやっているわけでもない。どちらかといえば、狭い場所で短い時間、限られた登場人物という制限でどれだけ物語を転がしていけるか、という面白味を感じた。
とりあえず様々な出来事が一箇所へ収束していく趣向は成功していたし、小刻みにテンポ良く事件と謎と解決が行なわれ、見ていて飽きさせない。
群集シーンから爆破テロ、カーチェイス、クライマックスのワンカットVFXまで映像にもそつがない。そこそこ複雑な状況なのに、映像を見ているだけで位置関係が把握できるところもいい。簡単に見分けがつく俳優が使われているところもありがたかった*1。
最後にネタバレにふれながら、不満をいくつか。全体的に、もっと面白くできただろうに構成が単純すぎるという残念さを感じる。
まず冒頭で視点を担当した報道陣は、状況設定を説明する役割しかなく、中盤以降にも取材などで動くかと思えば舞台から降りてしまう。たまたま映していた出来事からSPが異常に気づくという役目も、序盤で示唆された時点で実質的に終わっている。報道陣は映画の結末で事件の終了を宣言する役割があり、現状でも駄目というほどではないが、せっかく広げられそうな要素が使われていないことは残念だった。
壇上にかけあがった警察官も、最初に犯人かと疑われることと、爆弾の受け渡しに利用されるくらいしか物語上の役目がない。犯人像を隠すためにだけ存在する登場人物なので、様々な時間軸で描かれた行動を繋げてみると不自然なほど場当たり的にしか動いておらず、警察官という設定がほとんど活かされていない。
中盤で明かされて事件の構図を一変させかに思えた影武者ネタも、そのまま本物の大統領も狙われるという単純な展開にしかならなかった。影武者側でも物語が大きく進展していたとか、大統領が2人いることを活かした見せ方は他にも色々とあったはず。影武者大統領の死体をめぐって、作戦を深く知らされていないテロリスト協力者と民間人が無駄に戦い、それがクライマックスで意外な効果を上げるとか。
クライマックスの救出劇も、民間人が助けようとする姿が先に描かれており、そのままひねりなく助けることに成功してしまう。クライマックスでは凶悪なテロリストが唐突に子供を避けるところにも違和感があった。ここには別視点で描かれた出来事が救出成功に繋がったという驚きがほしい。たとえば大統領が起きてテロリストを攻撃する場面をクライマックスへずらし、運転ミスに繋げるとか。あるいは轢きそうになる直前でテロリスト視点へ時間を戻し、アメリカが生んだ戦争で子供が死んだ背景をテロの動機として描いたりすれば、それなりに意外性とメッセージ性を出しつつ、視点を変える趣向の意味も強くなっただろう。
*1:そう複雑な筋でない映画でも、たまに登場人物の見分けがつかなくなることがある。洋画では特にそうだ。