法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『怪談』

『リング』『女優霊』の中田秀夫監督が、明治期の落語『真景累ヶ淵』を映像化したもの。
真景累ヶ淵』の基礎になった恐怖実話『累』は『四谷怪談』の前身でもある。この怪談は『真景累ヶ淵』の特色である親子の因縁を排除し恋愛話として映像化したため、結果としてさらに『四谷怪談』と似たあらすじになっている。YOUTUBEで視聴した。
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良くも悪くもホラーらしくなく、映画としての満足度は高い。Jホラーシアターというレーベルは海外に向けて発信する意図もあったらしいから、あまり恐くない*1日本情緒を出した変化球が入るのは、そう悪いことではないと思う。


ショックシーンを抑えてモダンホラー演出を入れつつも、全体的には情緒的な怪談時代劇となっている。ホラーらしい描写が始まるのは物語の中盤にさしかかってようやくで、墓地のような場所もホラーな描写をせずあっさり流す。
特撮は主人公の新吉が花火を見上げる江戸の町に最も力を入れており、蛇や天井は3DCG丸出し。橋や廃寺のセットも素晴らしいので、やはり制作者は時代劇としての面白味を優先しているのだろう。期待していなかった殺陣も、立体的な舞台を効果的に用いていて良かった。
舞台劇的な過去の因縁描写に落語をかぶせる冒頭から、定期的に落語調のナレーションを入れて、観客を現実に引き戻すような演出まで行なっている。むしろ積極的に恐怖を緩和し、恋愛劇としての側面を強調しているのだろう。


しかし好きだった女性を看護することに疲れて、つい他の女性についていってしまう主人公は見ていて腹が立ったな。女性に無理やり引きずり回されるでなく、逆にピカレスクな魅力があるでもなく。優柔不断この上ない。幽霊が現れても何かしらの対処をするでもなく、流されるように結婚して育児放棄
せめてもう少し好きだった女性を裏切る葛藤が描かれていれば、同情までいかなくても納得できたし、恐がる姿に感情移入して恐がることもできただろうに。
まあ、そういう男を好きになってしまい戻れなくなった女性の業を描いているのだろうが。

*1:もっとも、シリーズ序盤の『予言』からいきなり恐くなかったのだが。