2008年8月10日に発行された、「プロパガンダ」を自認するマンガ。欧米向けに翻訳することを意識して、背景の擬音を英字で書き、左から読む体裁になっている。
「ブラック・プロパガンダ」とは一線を画す、事実を基にした内容と原作者は称している。
確かに、単純素朴な南京事件否定論と比べれば、まともな部分もある。
冒頭の原作者による長文解説では、コミンテルン陰謀論を批判したり、北支分離工作へ言及して国民党の反応に一理あることを指摘したり、補給がままならない状況で日本軍が捕虜を手厚く扱えなかったことを認めたりしている。
しかし最終的には、南京大虐殺が国民党の宣伝によるものという根拠を提示しようとして東中野修道氏の著作を推薦してしまったりして、底も知れてしまう。
さて、本体となるマンガで最も問題かつ見所は、技術の稚拙さ。あまりに稚拙なため、日本軍の美化が不充分で、結果的に史実へ近づいている感もあるくらいだ。
とにもかくにも、目を通してもらえばわかるが、単純にマンガ絵として見て下手*1。便衣兵を探して処刑する場面から二つ引用しよう*2。
このコマなんて、いわゆる“目を見ればわかる”という台詞をカッコよく極限状態の選択として表現したいだろうに、絵がラクガキ状態なので効果が薄い。バカな兵士が勝手な理屈で虐殺しようとしている姿にも見えてしまう。結果的に史実へ近づいているわけだが、だいたい目を見て殺すかどうか判断していいのは物語の中だけだよ!
このコマも地味にひどい。たしか、先に引用したコマと同じく、台詞には元ネタがあったはず*3。南京事件が存在した根拠の一つを、カッコいい軍人の台詞とすることで、あたかも誰も実行には移さなかったと表現したいのだろうが……苦渋の表情という表現ができていないので、第三国人の前で躊躇せず非人道的な台詞を発する愚かな日本軍人に見えてしまう。
そうそう、軍人の隣で顔面をクシャクシャにさせている……というか稚拙な技術のヨレヨレな線で書かれている……のがジョン・ラーベ。たぶん、日本兵の葛藤に気おされているように表現したいのだろうが、線が汚いので表情がわかりづらい。
これを外国人に見せて南京事件否定論を広報できる、と本気で思ってるらしい原作者が凄い。
ところで、最近に中国経由で話題となっている南京事件朝鮮人主犯論*4もとりあげられている。
さすがに軍人として大量動員されたという嘘はつけなかったのか、進軍中に出会った朝鮮人を協力させ、軍服を与えたら日本軍のふりをして犯罪行為を働いたという描写になっている。……いやあ、そんな状況がありふれていたとしたら、日本軍はどんだけバカなんだって話だろ。
ちなみに、問題の朝鮮人キャラクターは先に中国軍へ協力しており、日本と中国両方の顔をうかがう卑屈な人物として描写しようとしているのが涙ぐましい。ところが、中国人を高圧的な性格と描いている上、日本人が身勝手な理屈で侵略していることも隠し切れていないから、卑屈さが本人の責任だけとは限らないとマンガだけからでも読み取れてしまうんだな、これが。