法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『All You Need Is Kill』桜坂洋著

戦死した瞬間から約30時間巻き戻り、異星からの敵「ギタイ」と戦い続ける羽目におちいった男の物語。


時間ループSFらしく、人死にあふれる展開ながらゲーム的で、序盤はほどよい刺激で気楽に読める。状況を把握しつつ主人公が戦闘技術を身につけていく前半までテンポ良く読め、個々のベタなキャラクター達にも思い入れができるようになる。
そして、とある女性の真実……予想された内容ではあるが……を主人公が知り、ループ突破口への手がかりも見つかった後半の疾走感もいい。時間ループSFにありがちな、作者も後書きで言及している「当然」を、くりかえしの一日で積み上げてきたドラマが打ち崩す。
うまく設定でキャラクターや舞台や時間を削り込み、いかにもライトノベルらしい甘さと苦さのある物語として、しっかりまとめていた。


SFとして見ると、「ヒト」はさておき「ギタイ」の思考が地球人類と異なることを描けていることがいい。時間の修復作用といったSFの約束抜きに、主人公の時間改変が失敗し続ける理屈もきちんと存在する。しかも、それらは時間ループ設定と密接にからみあい、設定に一本の筋を通している。
時間ループ設定自体も、感覚的にわかりやすく面白い。ネタバレにならない範囲でいうと、物理的にはループしていないというタイムパラドックス回避方法に膝を打った。
地球人類である主人公がループに巻きこまれた理屈は御都合主義と思ったが、結末まで読めば不自然さは感じない。


ただ結末に、重大な瑕疵ではないが、不満が一点だけ。
結末にいたる展開の伏線は充分だが、「バックアップ」を別群に移動させれば済むのではないかという疑問がある。ループの最初からでは時間的に無理筋、あるいはループが進んだ結末以降の状況では不可能と示す描写が欲しかった。


手ごろな文章量で読みごたえがあり、一つの作品としてまとまった佳作。
安倍吉俊の挿絵も悪くない。