法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『バトルスピリッツ ブレイヴ』第16話 ローマの落日 俊星流れるコロッセオ!

今回は主人公側の事情はそこそこに、ローマの支配権をゆずることになったバローネと、謀略で支配権を手にしたザジのドラマが描かれる。その2人の魔族を結ぶドラマのため、支配されているローマ人ザックがカードバトラーとして登場する……
カードバトルにしか興味がないため、逆に支配者としては強圧さがなく、名誉白人的なザックから一種の尊敬を受けているバローネが面白い。被支配者からの支持を積極的に得ようとは考えないザジの、狡猾なようでいて状況を混迷させるばかりの小悪党ぶりもなかなか。ザックもバローネに従っているわけではなく、魔族の支配から脱しようとしてバローネへの挑戦をくりかえし、ザジとバトルするため頭を下げる屈辱を甘んじて受ける。三者三様の性格が、そのままカードバトルへの姿勢としても表現される。
真面目な話、けっこう侵略と被侵略の複雑な関係性を描けているアニメだと思う。


一昔前の主人公と似たバトルを行うザックに対し、口先三寸で翻弄するザジ。しばらく人間のカードバトラーはダンばかりだったので、今回の一味異なるカードバトルが楽しい。
形成が二転三転しつつ、終わってみればバトルの流れが明快なので、運試しではなくて、ちゃんと戦術の優劣が感じられるところもミソ。作戦を立てられる前に速攻で倒そうとするザックに対し、デッキ構成を誤解させてザジが勝利をつかむ。ザックの姿勢がダンに似ていることには、ダンに対するみじめな敗北ばかり印象に残しているザジが相応に強いことを示す意味もあった。

『ハートキャッチプリキュア!』第45話 もうダメです…世界が砂漠になりました…

これまで砂漠の使徒による侵略は冗談みたいな作戦も多く、足踏みをしながら遅々として進まなかった。
それが今回の前半で、砂漠の王デューンが到着した途端に全世界砂漠化という急展開は、どうにも積み重ねを無視しすぎていて台無し感がある。これまでも『プリキュア』シリーズでは多用された描写ではあり、今回はサバーク博士以外の配下が顔を出していないので次回予告から見ても敵側が積み重ねたドラマを描くのだろうと期待はできるのだが……
一方、後半で全世界砂漠化に絶望していたプリキュアが、これまで助けてきたゲストキャラクターの元気な姿ではげまされる展開は良かった。ここで登場するゲストキャラクターの多さ多彩さが、そのまま積み重ねた物語の厚みであり、プリキュアが再起する説得力を高める。
そのまま襲ってきた敵を返り討ちにしたプリキュアは、宇宙に浮かぶ敵城塞へ乗り込み、戦いを始める。……まさか1話でここまで物語を進めるとは予想していなかった。


主人公が成長して、戦う目標を明確化するというシリーズ構成上の要所は押さえているが、残り話数の少なさにあせっているようにも感じる。
よくいえば複雑な芝居を必要としないシンプルな脚本だから、映像リソースを節約できたのかもしれない。それでも全世界砂漠化の早さには、もう少し描写を足してほしかったところ。


今回の作画監督は奥山美佳。開けた口がハート状になるので、EDクレジットを見るまでもなくわかる。スペシャルな原画が入っているわけでもないので、敵首領の初戦闘回としてはアクション作画が低調気味。
しかし低調な作画を補うように見せ場を作る黒田成美コンテが良かったので、全体として映像がよく保てていた。砂漠化した世界も、背景美術の手間を削減することに繋がっているだろう。
まず、デューンの戦闘には作画枚数を割りふり、きちんと殺陣を見せているかに思わせて、倒されたプリキュアが気絶することで以降は動かさずにすむ。中盤の全世界砂漠化は背景のみの止め絵多用で処理しているが、最初に名も無き外国人の芝居を入れて世界規模の出来事と印象づける。後半のアクションは敵に巨大感が出る構図を選び、プリキュアの攻撃は光の軌跡と使い回しを活用。敵をあっさり倒す手抜き描写も、以前は苦労した敵*1が相手なので、人々の応援の力とプリキュアの成長を示す演出となる。
少年が老婆をお姫様抱っこしたり、巨大妖精にキュアマリンが乗っかったり、見ていて面白い絵も多かった。

『STAR DRIVER 輝きのタクト』第十三話 恋する紅い剣

序盤に続けて敗北をきっした2人と、スガタのドラマの踏み台にされたベニオ。
今回は「フィラメント」に属する3人の隠された同志関係を描き、ただのやられ役で終わらせないドラマを描くと同時に、その同志関係が3人のスタードライバーとしての弱さを設定的に裏付ける。


うん、構造を取り出してみれば単純だし、複雑な動機を隠しているところはシモーヌの変奏ではあるが、上手いシリーズ構成だね。
どうしてもロボットアニメとしての展開上、負けてしまうキャラクターが出てくるんだけど、学園ドラマならばキャラクターを使い捨てたくないところ。だから大敗するキャラクターをまとめて一つの勢力に位置づけ、強くないからこその背景を描く。
ちょっと映像の温度が低いので、冷静にうまいと感じる気分になってしまい、あまり物語そのものへのめりこめないのが悩むところだが。

『坂の上の雲』第8回 日露開戦

開戦を前にして高まっていく緊張感は悪くなかった。特にロシア皇帝ニコライ二世が開戦をためらい譲歩する姿勢を見せながら*1、現場の思惑で情報伝達にすれ違いが起こる。秋山兄弟が書きつけた内容を隠す場面とともに、このディスコミュニケーション描写は戦争映画の定石。日本海軍が集まる暗い密室において、望まぬ形で戦争の始まりが描かれるところも良い演出。
今回はドラマの結末に向けて伏線がよりあわさっていく構成ができていて、現場の気分を描いたドラマとしては成り立っていたかな。まだ今週放映の第9回を見れていないので、いずれも次回次第だが。


特撮面も非常に健闘していて、港に停泊した軍艦を移動撮影で合成したカットは自然で印象に残った。

*1:ここは原作になかった描写だったはず。ニコライ二世は原作だと日本人に対して差別的な呼称まで用いていたと思うが、ドラマでは以前にも暗殺未遂事件を回想した場面に葛藤がうかがえたり、人物としての奥行きが増していると思う。