法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『原始惑星への旅』

 2020年。金星に向かって飛行する3機の宇宙船のうち、1機が隕石に衝突して破壊される。残った2機で金星を探検するため、メンバーのわりふりを変更しながら金星に降りたった男たちは、異様な生物群に遭遇する……


 わずか73分しかない1965年の米国映画。1962年のソ連映画『火を噴く惑星』をロジャー・コーマンが買いとり、カーティス・ハリントン監督に追加撮影や再編集をほどこさせてローカライズしたという。

原始惑星への旅 新訳版 [DVD]

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 コーマンが5月9日に98歳で死去したという報道があったので、追悼のため所有していたDVDから未見のこの作品を選んだ。DVDの裏パッケージの解説にもあるように、けして評価が高い作品ではないが。
「B級映画の帝王」R・コーマン氏死去、98歳 著名監督・俳優を発掘 | ロイター


 原版の状態がかなり悪いらしく、全体が退色して黒い線などの劣化がはげしい。着ぐるみ特撮にスタンダードサイズもあいまって、良くも悪くもレトロな特撮TVドラマのよう。実際、米国ではTVムービーあつかいだったようだ。かなり適当な冒険劇をくりひろげた果てに金星人を間接的にだけ見せる結末だけシャレた演出も、背伸びした特撮ドラマっぽさがある。
 しかし金星生物の露骨な着ぐるみや、金星なのに地球そっくりな海があるところや、治療のため外界で宇宙服のヘルメットをあけて薬を飲ませる科学考証の稚拙さは、ロジャー・コーマンらしい安っぽさだが、追加撮影にしては映像のトーンが前後となじみすぎている。
 視聴後にしらべると、どうやら物語や映像はほとんど『火を噴く惑星』を流用しており、追加撮影は金星を周回する宇宙船にのこった女性乗組員くらいらしい。男ばかり登場する原典と比べて、結果としてジェンダーバランスが良くなっているといえなくもない。意外なことにお色気らしいお色気シーンもない。


 意外な魅力として、金星探検に同行する人間サイズのロボットがある。直線と曲線がいりまじったマッシブなフォルムで、けっこう現在でも通用しそうなディテールとスタイルがある。足先が地面をつかむような鉤爪になっていたり、当時としてはけっこう考えられたデザインをしている。
 さらに同行するふたりの乗組員が苦しむ場面でロボットが冷徹にふるまうような描写は、『大長編ドラえもん のび太の海底鬼岩城』の中盤を思い出させる。先述した海を乗り物で進む場面やさまざまな生物のいる海中描写も、ひょっとしたら影響をあたえているのかもしれないと思えた。もちろん気のせいかもしれないが。

『岸辺露伴は動かない』(9)「密漁海岸」

 アワビの密漁をおこなおうとしていた男ふたりが、夜の海岸で恐怖におそわれる。漫画家の岸辺露伴は担当編集の泉京香につれられて、隠れ家のようなイタリアレストランにたどりついた。イタリアから来た料理人トニオ・トラサルディひとりがきりもりするレストランの最初の客として、露伴たちは不思議な料理を食べていく……


 荒木飛呂彦原作のNHKドラマの、劇場版をはさんだ4期。これまでと違って単発放送だが、そのぶんだけ物語も映像も密度があがっている。
www.nhk.jp
 特に、中盤まで「密漁海岸」ではなく、『ジョジョの奇妙な冒険』からトニオの登場エピソードを映像化しているところがいい。これまでのシリーズでは、どうしてもドラマの枠にひとつのエピソードを映像化すると間延びしがちと思っていた。1時間枠ならば2エピソードをあわせるくらいがちょうどいい。
 その中盤まではレストラン内にひとつだけあるテーブルにふたりだけ座り、つぎつぎに出てくる料理が異常を生みだしていくところが舞台劇のよう。さほどリソースがあるわけでもないドラマで、予算をつかわず緊張感のある画面が成立している。
 でんでんの演じる漁師の怪しげな言葉を回想する場面や、クライマックスにおける密漁の水中撮影などは雰囲気たっぷり。そこからアワビやタコが人間を襲う描写のB級ホラーへの転調ぶりも楽しい。

『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』

 暗い嵐の海で、漁船が巨大なタコに襲われる。しかしひとりだけ生きのこった船員は、タコと戦った別の怪物に仲間が食べられたと証言する。その証言により、富士山で死んだフランケンシュタインの怪物が生きのび、凶悪化したと推測された。しかしフランケンシュタインを育てた女性研究者は否定する……


 1966年に公開された日本映画。本多猪四郎監督と円谷英二特技監督という東宝特撮映画の黄金タッグで、巨人同士のはげしい戦いを見せる。

 もともと前年公開の『フランケンシュタイン対地底怪獣』*1の続編として企画されたが、独立した映画として完成した。回想として描かれる場面は前作と似たシチュエーションだが多くの俳優も怪獣デザインも異なっていて、まるで直接の続編ではなく同じ脚本でリメイクした作品の続編のよう。超技術なメーサー車の登場も特に説明はなく、自衛隊車両の列にしれっと混じっている。
 しかし続編に近い作品となった結果として、説明を省略して怪獣が冒頭から出ずっぱり、現実感の基礎となる日常シーンを省略して特撮の見どころをつめこんだ娯楽作品となった。併映前提のような1時間半に満たない小品とはいえ、東宝シネマスコープ大作でここまでシリアスでいて怪獣の分量が多い作品は珍しい。
 ストーリーの構造は前作とほとんど同じで、リメイクに近い印象がある。2種類の怪獣が神出鬼没に行動して、人間に被害をもたらしている怪獣がどちらなのか科学者が推測や調査でしぼりこみ、人間になつく怪獣の冤罪を晴らす。前作では登場が唐突きわまりなかったタコは冒頭の荒海に登場させ、違和感なく主役の強さを見せる踏み台として活用される。人型の怪獣による食人などの刺激的な描写は多いが、物語展開にはひっかかりがなく、娯楽作品として見やすく完成度は高い。


 特撮描写はオーソドックスなものが多く、怪獣のサイズが小さいおかげでミニチュアを大きく作れて精度は高いものの、技術的な挑戦はほとんど見られない。特に合成は技術不足が目立ち、前作ほどではないがマスクが甘かったり、サイズ感が崩れているところが散見される。
 しかし浜辺や空港で水平線や地平線の奥からガイラが小さくあらわれ近づいてくる描写はすごい。白昼堂々の登場はいまだ国内外の怪獣映画でも珍しく、特異な恐怖感を出すことに成功している。霧の森の小道のむこうにガイラが立っている場面もすばらしい。
 また山中のサンダやガイラを映すにあたって樹木をていねいになめて奥行きを感じさせる描写も良い。そこからメーサー車がガイラを攻撃する時の光線が周囲の樹木もなぎたおしていくていねいな描写につながり、架空兵器に実感をもたらしていた。

『フランケンシュタイン対地底怪獣』

 第二次世界大戦の末期、ドイツから日本へ潜水艦で謎のアタッシュケースが運ばれた。そのなかで、液体に浮かぶ心臓が動いていた。フランケンシュタインのつくりだした不死身の生命だという。
 しかし日本の広島にたどりついた心臓は原爆投下により行方不明になった。そして戦後の広島で、女性研究者が不思議な戦災孤児をひろうが……


 1965年の日米合作映画。本多猪四郎監督と円谷英二特技監督という東宝特撮映画の黄金タッグで、いつもの怪獣映画よりやや小さいスケールの巨人と怪獣の戦いをリアルに描く。

 タイトルの地底怪獣には「バラゴン」とルビがふられているが、劇中では「地底怪獣」とだけ呼ばれている。20年以上前に劇場公開版は視聴したことがあるが、DVDではじめてタコ出現版を視聴した。


 まず、記憶より戦中パートが長い。そこで無骨なケースをあけると液体につかった心臓だけが動いているビジュアルが魅力的。『ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日』のシズマドライブや、『機神兵団』のモジュールに影響をあたえているのかもしれない。

 戦後の本編に入ると、急成長する子供がフランケンシュタインなのかという謎が物語をひっぱる。そこでたしかめる方法として手足を切り落とすことがドイツの科学者から提案され、もちろん日本の科学者は難色をしめす。この場面が一見すると無関係なフランケンシュタインの脱走にかかわってくることに驚いたし、その関連を観客にしめすビジュアルの強烈さも印象的。記憶にのこっていなかったが、かなり巧妙な物語構成をしている。
 フランケンシュタインを科学者が解明していくドラマと並行して、地底怪獣の神出鬼没な破壊が描かれ、それが登場人物をまどわすドラマも生んでいる。地下にはわかっていないことが多いという会話があるので、怪獣が地割れに飲みこまれる唐突な幕引きも許容できる。
 問題は終盤のタコの唐突すぎる登場で、いっさい伏線も説明もなく山間部にあらわれたことには唖然とした。そこまでフランケンシュタインの性質を調べて移動経路を推理する物語がつづき、それを混乱させる地底怪獣の行動も並行して描いている。誰にも気づかれず第三の怪獣が登場できる世界観ではない。最終的に劇場公開版はもちろん、タコ登場を提案した海外でもタコが登場しないよう変更されたのも当然だろう。
 逆に、劇場公開版の結末も初見では唐突な印象があったが、あらためてシネマスコープで見るとバラゴンの活動で地形が崩れていく描写が執拗にくりかえされているので、バラゴンを倒したフランケンシュタインがバラゴンのつくった地割れに飲みこまれた一種の相打ちに見えて納得できた。


 ミニチュア特撮作品としては充実していた。キグルミではない、当時なりの特殊メイクを俳優にほどこしたフランケンシュタインは動きの自由度が高く、高低差のあるセットでも移動しやすい。しかも怪獣のスケールが小さいおかげでミニチュアのサイズが大きく、平坦な板にミニチュアをならべたような単調なセットになっていない。あまり出番の多くない海底油田や研究所のセットもしっかり作っている。冒頭の無人の戦場など珍しい情景も多いし、マット画の精度も高い上に動く部分をつくっていて気にならない。
 猪や馬が人形丸出しなのは有名で、ご愛敬と思って苦笑する。しかしミニチュアとからませる人間を人形で表現している部分は意外と違和感がない。カットを短めにして、上半身だけ見せたり倒れた場面にすることで、動きのおかしさが気にならないようにしているおかげもあるだろう。
 しかしブルーバック合成の精度が低く、輪郭が青くチラつくカットが多いことは残念だった。手前に人間、奥に怪獣を配置したレイアウトが多くて、超常と現実の連続性を表現しつつ世界の奥行きを描けているのだが、だからこそ合成とバレているカットの多さが演出の効果を減じている。同じような大サイズでミニチュアの精度を高めた大映の『大魔神』の前年に公開されたことで、当時の東宝が合成技術では大映に劣っていたことがよくわかる。そしてそれが日本の特撮愛好家に合成が嫌悪されていた原因のひとつではないかと今さらながら思った。

『怪奇探偵リジー&クリスタル』山本弘著

 20世紀初頭のロサンゼルス。その一角に居をかまえる私立探偵と助手の女性コンビは、まともな人間ではなかった。オカルト的な意味で。そして立ちむかう事件もまた、人間の社会から外れたものだった……


 2015年に出版され、後に文庫化された幻想怪奇連作短編。レトロSFやレトロ特撮への愛好が前面に出つつ、作者にしては人間描写はライトでクセのない娯楽作品になっている。

 作者は過去作品で何度かレズビアンバイセクシャルを登場させているが、今回の女性コンビはそういう関係ではない。かといって『ダーティペア』のように男好き描写が強烈なわけでもなく淡白なので、逆に百合っぽい解釈もしやすい。
 1話目は幻想怪奇な設定を活用した特殊設定ミステリ*1として標準的で悪くない。しかし以降はミステリ的な推理や意外な真相よりも、舞台となった時代と場所を意識した特撮趣味やB級ホラーへと1話ごとにジャンルを変えていく。
 各話ごとにネタはまとまっているのでジャンルが変わっても読みやすいし、舞台設定にすぎないはずの女性コンビの来歴もしっかりSFホラーとして物語にくみこんで小説としてまとまっているが、2話以降も謎解きミステリとしての枠組みを守るほうが好みではあった。

*1:生ける屍や超能力などの現実には存在しない設定を厳密なルールとして組みこんで、合理的な謎賭けと謎解きを展開しようとするミステリジャンル。こちらのミステリ作家による座談会でも言及されているように、TRPG設定をつかった短編小説アンソロジー山本弘が提供した『ゴーレムは証言せず』も代表的な作品のひとつ。 令和探偵小説の進化と深化 「特殊設定ミステリ座談会」|令和探偵小説の進化と進化 「特殊設定ミステリー座談会」! 前編|tree