法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『世界まる見え!テレビ特捜部』神ってる

オーストラリアのメルボルンでは、巨大動物園のゾウの牙が折れたことで、治療のため悪戦苦闘する。
折れた牙から感染症が起こらないように、麻酔をして抜きとる。しかしクジラのようにゾウは体重が重すぎて、下手に倒すと骨折しかねないし、横たわりつづけるだけで内臓への負担があるという。
巨大なゾウ型風船で練習して、タイムリミットは5時間。ロープでひきあげ多人数の人力で動かしたりと悪戦苦闘して、ウィンチで無理やり引っぱって抜いたが、今回のタイムリミットは片側1本で限界だった。
動物保護のための動物園という環境が、人件費から医療技術まで大量のリソースを必要とすることが実感できた。見世物ならば安楽死などで終わりなのだろうが。


南米アマゾンでは国境を超えるように30以上の先住民が集まり、1週間にわたって交流的な競技会を開く。
いかにも東京五輪を目前にしたドキュメンタリ選定だが、中止になる可能性は考えなかったのだろうか……考えなかったのだろうな。
しかしドキュメンタリの光景そのものは印象深い。飛行機などの交通機関へアクセスするだけでも1日以上かけて川をボートで移動したりする。先住民とひとまとめにくくられるなかでも、さまざまな文化や狩猟技術の違いがわかってくる。
そうして到着した競技会場が突然の大雨で水浸しになり、いったん中断しつつも、半分の競技は決行。50m先の魚の絵を目がけて、スタビライザーなどない原始的な弓矢でズバズバ的中させていく。なかでも飛び入りの中年女性が見事に魚の目に的中させて最高点を叩き出した超人ぶりには圧倒された。
他にも、2m以上ありそうな吹き矢で10m先の小さなカボチャに次々に命中させていくエキシビションや、綱引きで足元の地面がえぐれまくったりと、唖然とするような光景が展開されていく。
この競技会も調べれば五輪のような問題が隠れているのかもしれないが*1、ともかく交流競技の本来あるべき楽しさ、超常アスリートのプリミティブな驚きが感じられて、印象深い内容ではあった。

*1:簡単に検索しただけでは全長版ドキュメンタリの内容はわからなかった。ちなみに競技会との関係性はないと思うが、先住民という国家とは異なる共同体が連帯することで、国策による圧力へ抵抗する動きが報じられている。 https://www.afpbb.com/articles/-/3263993

『トロピカル~ジュ!プリキュア』第21話 夏休み! トロピカる部の合宿計画!

合宿をしようと相談しあうトロピカる部。その会話のなかで出てきた夏海の故郷へ皆で行こうと決定する。期待で眠れなくなった夏海はローラと同じベッドで寝るが……


今千秋コンテ回。ふたりで寝る夏海とローラの告白や、ラストカットの夏海など、独特の表情づけが印象的。
敵が怪物化するのが夏海のもってきたトランクで、戦闘と並行して夏海のキャラクター性で楽しませつつ、トランクの特徴をつかって協力して倒す作戦に説得力があったのは珍しくて良かった。
しかし良くも悪くも全体として突出してはいなかったかな。物語は完全に合宿エピソードの準備回で、期待に胸をふくらませる主人公らの姿とともに、次回以降の前ふりになる情報を出すだけで終わった。
きりっとした顔で枕をもってきた滝沢など、キャラクター描写は全体的に楽しかったし、つなぎ話がこのシリーズにあること自体の珍しさもあったが。

『ドラえもん』スグピクトグラム/雲ソファーでスポーツをみよう!

いかにも今年にずれこんだ東京五輪を応援するようなアニメオリジナルストーリーの二本立て。思えばドラえもんは2013年招致の親善大使キャラクターではあった。
news.tv-asahi.co.jp
たしかにのび太も下手なりに野球をやりたがったりはするし、スポーツ観戦もそれなりに楽しんだりはする。しかし、体育に動員されて犠牲となる体力弱者によりそう物語でもあるはずだ。社会に犠牲を強要している大規模な体育イベントを無批判に賞揚だけされても鼻白むしかない。
明らかに五輪をモデルにしながら、名称の使用料が発生するのを恐れてか、それとも新型コロナ禍で劇中の光景と実際の五輪が異なることを意識してか、ずっと違う名称を用いていることも違和感がある。


「スグピクトグラム」は、外国人からトイレの場所を質問されて答えられなかったのび太に、ドラえもんピクトグラムの歴史を語る。そして、はるだけで場所の機能を変える秘密道具を出すが……
アニメオリジナル秘密道具をつかって、五輪で生まれて根づいた文化を賞揚する物語。伊藤公志脚本に、鈴木卓夫が一年ぶりのコンテ。
冒頭で珍しく外国人と出会った理由として、国際的なマラソン大会が開催予定という説明が入るプロットは少し良かった。しかし何もかもを五輪賞揚の物語に組みこんでいくメッセージ性そのものが安易ではある。
劇中のスポーツ大会は先述のように五輪の名称をつかわないのに、ピクトグラムの歴史説明では過去の東京五輪に言及*1。それも物語に不協和音を生んでいる。


「雲ソファーでスポーツをみよう!」は、日本で開催される国際スポーツ大会で、スネ夫がさまざまな種目のチケットを入手したことを自慢する。そこでドラえもんは空中から観覧する方法を考えた……
大塚正実がひさしぶりに本編に原画で参加。サッカーシーンのいくつかや、ラストカットのスネ夫が少しそれらしいが、作監修正がしっかりしているのか区別が難しい。
本編はオチでスネ夫が「ナニコレ」とぼやくくらいシュールで投げやり、考えなしの展開がつづく。秘密道具で観覧席をつくって近づいて応援するだけ。
開催時のアンバサダーキャラクターではないとはいえ、半公式的に起用されたキャラクターが無料観覧を楽しんだり*2、それが結果的に他の観客を邪魔する展開に意図せぬ皮肉を感じたりはしたが……

*1:放送後の7月23日の開催式でもピクトグラムが演出にもちいられたが、アニメスタッフに情報がわたっていたのか、同じ過去を参照した結果の偶然か。

*2:子供向けの商業作品でありながら、映画などを無料で勝手に視聴しようとするエピソードは原作でも多い。

防衛戦争における歴史的な英雄の発言を引くのがダメなら、日本の聖火リレーもダメだったのでは?

先んじてオリンピック委員会に旭日旗の使用を認めさせたことと比べて、歴史的な英雄の名言をもじることが、特に問題視されるべきかよくわからない。
【東京五輪】韓国選手団が選手村に「反日横断幕」 不穏な〝戦時メッセージ〟掲げる | 東スポのニュースに関するニュースを掲載

 李舜臣豊臣秀吉朝鮮出兵に抵抗した「反日英雄」として韓国では神格化されている。そんな反日の象徴を持ち出して、日本と当時の朝鮮の間の戦争に関連した言葉を選手村に掲げたことは大きな波紋を呼びそうだ。

 日韓の間には東京五輪を巡って竹島(※韓国名・独島)の表記や旭日旗使用などを巡って火種がくすぶっており、早くも不穏なムードが漂ってきた。

歴史的な事象の、それも防衛側の立場でも許されないのであれば、たとえば茨城県聖火リレーはどのように解釈したらいいのだろうか。
聖火 名所や被災地へ 7月5、6日 16市町巡る : 東京オリンピック2020速報 : オリンピック・パラリンピック : 読売新聞オンライン

県内の聖火リレーが始まるのは鹿島神宮権禰宜の中嶋勇人さん(39)は「九州へ向かう防人が、戦勝や無事を祈願して旅立ったことが由来の『鹿島立ち』という言葉もあり、スタート地点には適している。気を引き締めて準備する」と話した。

スキージャンプの葛西紀明が「カミカゼ」という二つ名をつかいつづけていることもそうだ。アジア太平洋戦争でなく元寇に対する防衛とは解釈できるが、それこそ李舜臣と同じではないか。

夢を乗せた風が来るまで、カミカゼ・カサイの諦めないジャンプの旅は続く。(本文より抜粋)

number.bunshun.jp
ただ、これを機会に五輪は国家対抗ではないという建前が順守されるようになるなら、それ自体は良いことではある。
あるいは、アナロジーとして戦争に類する表現を安易にもちいる問題が意識されるなら、それもまた悪くないことだが……

今回の『AERA』のアンケートは「反日」をカギカッコに入れているし、そこまで怒らなくてもいいのではないか、という気がする

批判されているツイートを見ても、元首相で現職の与党議員である安倍晋三氏の発言を受けるかたちで、一応カギカッコつきで「反日的」と表記している。


安倍前首相が、コロナの感染拡大が続く中での五輪について、「反日的ではないかと批判されている人たちが、今回の開催に強く反対している」と述べました。反対している人は本当に「反日的な人」たちだけなのでしょうか。考えをお聞かせください。https://t.co/D7WmFNxEaR

これが2013年の韓国を論評する記事では、カギカッコに入れない地の文で「反日」という表現をつかっていた。
日韓の「潜在的時限爆弾」 2015年問題とは 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

 中国の「戦略的反日」に便乗するように「反日悪罵」を吐いている韓国。歴代大統領は就任当初は未来志向をとなえ、政権末期に反日に走るのが常だった。だが朴槿恵(パククネ)大統領は就任早々から反日全開、米中トップとの首脳会談で日本批判を繰り返し、安倍晋三首相との会談は「過去の歴史解釈が道徳的でない」と拒否し続ける。

数年前のように「反日」という枠組みを前提視せず、著名人の示した枠組みというかたちでアンケートをとっているだけでも進歩ではないだろうか。
進歩してなお問題なことには変わりない、という批判なら重々わかるのだが、同時になぜ今回はこれほど注目されているのかという疑問はある*1
日本人に対する評価としての「反日」ならば注目されるが、韓国に対する評価としての「反日」なら見逃される、というなら別の問題があるだろう。


参考として、2013年のAERA記事でコメントをよせている専門家の木村幹氏と浅羽祐樹氏が、それぞれ産経新聞や文春などのメディアで「反日」という表現をつかった例がある。
【日韓合意検証発表】「日本に瑕疵なし」証明した 木村幹・神戸大大学院教授 - 産経ニュース

反日団体の説得」や「在韓大使館前の慰安婦像撤去に向けた具体的な計画策定」など、日本側の要求について韓国政府が議論に応じていたことが明らかになった。

韓国と「友人」であることは諦めた方がいい 「ホワイト国」除外で見えた深い溝 | 文春オンライン

私は少し前から、韓国の「反日」、日本の「嫌韓」の性質が変化してきたと思っています。

 これまでの「反日」は、日本の首相の靖国神社参拝や閣僚の「妄言」など、日本側の動きによって生じるところが多かった。それが最近は、韓国側の動きによって、「嫌韓」が一気に広がっています。

AERAのアンケートと同じくカギカッコに入れているが、少なくとも記事内では無批判につかわれている。それぞれ他の表現を選んだり、わかりやすく注釈することができないとも思えない。
これもまた、他者に対しては許容していた問題が自身に向かった時のことを考えなかった結果ではないだろうか。さまざまな社会的な弱者を踏み台にしてきた東京五輪の現在のように。
怒るなら、きっともっと前にやるべきだったのだ。もちろん今よりさらに遅らせる必要はないのだけれど。

*1:注目量の一参考として、今回のツイートにははてなブックマークが13ついているが、2013年記事にはまったくついていない。