以前と同じように母親と衝突した渡辺千佳が佐藤やすみの家に転がりこんでくる。しかし今回は同じアイドルコンテンツで仕事をする双葉ミントも追加でやってきた。渡辺と同じ元子役だが、双葉の母親は大女優の双葉スミレで、芸能界に理解がないためではなく理解しすぎているからこそ娘の限界を指摘しているらしい……
TVアニメの放送とあわせるように2024年4月発売。シリーズ10作目の大台は、それなり以上にすごいことではあろう。
高校卒業をひかえて仕事として声優をつづけられるかという主人公コンビのメインテーマに、親から庇護され監督される幼い立場のドラマが重なる。そのドラマにのせて、良くも悪くも声優は俳優の一形態でしかないことを、声優業も普通にこなせる偉大な俳優を登場させて描いていった。
すべての親が子に愛情をいだいているわけではないというエクスキューズもきちんと入れている。親の愛情を期待することに佐藤のプロフィールが関係していることも指摘させて、キャラクター描写としても成立させた。
解決のギミックは、年齢が異なるキャラクターを演じることで声優を認めさせるというもの。実のところ舞台劇では年齢も性別も動物も異なるキャラクターを演じることがよくあるので、経験をつんだ大女優を驚かせるギミックとして本当は弱い。しかし最後の最後に佐藤が推理した真相により、大女優が驚いたのは別のところと解釈できるので、致命的な問題ではなくなった。
しかしせっかくなら、そこまで大口を叩くなら実際の演技を確かめて少しでも下手なら笑ってやろうと双葉スミレのアニメ参加作を佐藤たちが視聴して、演技力に圧倒されて敗北感をおぼえる……なんて一幕があっても良かったかもしれない。
渡辺の発声から舞台出身と指摘する描写だけでも大女優らしさは表現できているとは思うが、もともと舞台と声優は近いものだし、これまで登場した人気ベテラン声優が舞台でも仕事をしているような挿話もほしかったかな。