法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『EAT-MAN』雑多な感想

 砕けた飛行船が宙をただよいつづける世界。さまざまな事件の発生する場所に、ボルト・クランクという冒険屋がいた。ボルトは機械部品を食べ、体内で完成させる能力をもっていたが……


 吉富昭仁のSF漫画を真下耕一監督がTVアニメ化した1997年版。買ったまま放置していたDVDコレクションBOXで再視聴した。

 さまざまなサイトで配信されているので視聴は難しくないし、別スタッフが1年後に原作によせてTVアニメ化した『EAT-MAN'98』とあわせてBlu-ray BOX化もされている。

 1997年版は全編アニメオリジナルエピソードで、主人公の性格も原作とは異なるが、DVDの2巻ブックレットの監督によると、原作が一般公開される前に1話と2話のゲラを読んだ段階で制作がはじまったという。


 ビィートレインをたちあげる直前の真下耕一監督がスタジオディーンで制作。作画枚数と説明台詞を抑制して、背景美術と音楽で雰囲気をつくる、良くも悪くもビィートレイン時代の真下作品*1の原型的な作品になっている。基本的に一話完結の事件解決ストーリーなので、はっきりした説明はなくても理解しやすい。原作程のトリッキーさはないものの、各話にちいさなどんでん返しもあって、オーソドックスなサスペンスとして楽しめる。村田俊治のさっぱりとしたクセのないキャラクターデザインも悪くない。
 松本憲生が一人原画と美術設定を担当した第7話が、名前で期待させるわりには作画アニメとして評価が低く、実際に同時代にVHSで視聴した印象は良くなかった。第5話のポールダンスのほうがポイントで女体をよく動かしていて深夜アニメらしい楽しさがあったりなかったり。あらためて見ると小さな角度の変化で顔に影が落ちるアニメーションや、微妙な動作でも全身を動かす芝居、松本作画では珍しいメカニックの精緻な動きなどは楽しめる。

 しかし当時からアニメを評価する基準が変化した立場から見ても、期待ほどではないという印象は変わらなかった。問題は作画枚数の少なさより、BGオンリーを多用するわりに美術に精緻な緊張感がないことが原因という気がした。いっそ美術も真下監督らしくシンプルにデザイン化して、明暗のメリハリをつければ、もっと松本レイアウトの良さが活きたと思う。

*1:第1作の『ポポロクロイス物語』のみ、例外的にアニメーションがよく動く。