法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『吸血姫 美夕』

 人間の世界に「はぐれ神魔」という超常の存在が迷いこみ、さまざまな謎めいた事件を起こしていた。それを解決しようとする霊媒師の瀬一三子は、美夕という少女といくども出会う。永遠に少女の姿をした「吸血姫」の美夕は、ラヴァという神魔を使役して、「はぐれ神魔」を狩っていた……


 オリジナルの和風伝奇ホラーとして、1988年から全4話で発売されたOVA。タイトルの「吸血姫」は「ヴァンパイア」と読む。20年ぶりくらいに再視聴した。

 DVDは古いジュエルケース版しかなくプレミア価格になっているが入手困難というほどではないし、さまざまなサイトで見放題配信もされているので、今でも視聴はしやすい。

 平野俊弘*1と垣野内成美という夫妻アニメーターによる共同原作だが、当時すでにベテランの平野監督作品というよりも、漫画版を長期連載した垣野内成美の作品という印象が強い。
 OVAでもキャラクターデザインと全4話の作画監督をつとめ、第3話をのぞいて絵コンテも単独で担当。必ずしも作画枚数は多くないが、可愛らしくも耽美に整った作画が楽しめる。
 当時は気づかなかったが、女性アニメーターが主導して商業的にも批評的にも成功した商業アニメとして先駆的だ。


 もちろん各話30分ほどでひとひねりをくわえたホラーストーリーはシナリオ担当の会川昇*2の力もあるだろうし、神魔のデザインを担当した森木靖泰も世界観を形作る重要スタッフだったろう。
 美夕はきれいな人間であれば男女とも吸血の対象にするが、カーミラのようなレズビアニズムはうすい。特に第2話では美少年を別の神魔の少女ととりあう。その対立する神魔は言動が美夕の鏡像であり、キャラクターとしては上回って終わったことが印象深い。
 アニメとしては平野俊弘がコンテを担当した第3話がアクション多めで、巨大な鎧人間が古い街並みにあらわれる平野コンテらしい怪獣映画的レイアウトが特に良い。

 ただし内容は美夕のパートナーが争奪対象となる本筋からは外れているので、趣味に走っただけという印象がのこった。一応、大切な人を想って行動するドラマが重なりあってはいるのだが、そのドラマのつくりは基本的に全4話とも同じなので、特に第3話に入れる意味があるわけではない。
 そして最終回の第4話は、ホラーらしく異様に後味が悪かった記憶だけ残っていて詳細は忘れていた。しかし実際に再見すると、恐怖の余韻を残しつつも人間と神魔の境界を問いかけるという作品全体の主題にそった結末で、悲惨な内容というわけではなかった。

*1:後に平野俊貴に改名。

*2:後に會川昇に改名。