法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『新少林寺/SHAOLIN』

 清朝が倒れ、内戦がつづく20世紀初頭の中国。敗北して少林寺へ逃げこんだ敵将を追って、侯杰という将軍が近代的な軍隊をひきつれて押しよせてきた。そして侯杰は部下とともに少林寺の僧侶をしりぞけ、敵将を撃ち殺して去る。侯杰は組織内で下剋上も考え、腹心の部下と作戦をねっていた。一方で少林寺は戦乱のなかで弱き人々を守ろうとしており、僧侶のなかから軍隊から食料を奪おうと考える者が出てくる……



 1982年の『少林寺』をリメイクした2011年の香港映画。主演はアンディ・ラウで、ジャッキー・チェンカメオ出演する。

 現代の中国資本映画らしくリソースに不足を感じず、シネマスコープにふさわしい大作感がある。落ちついた雰囲気ある色調で統一され、大自然の描写もVFXを併用して自然にこなし、少林寺のセットも広々として、群衆も軍隊も動けるエキストラをあつめてすみずみまで隙がない。
 それでいて21世紀とは信じられないような無茶苦茶なアクションを馬でやっている。中盤のカーチェイスならぬ馬車チェイスは何事かと思った。一応エンディングで動物は死んでいないみたいなテロップが流れたが、それが信じられないような映像が多い。


 話運びもいい。冒頭の戦火と寺社と軍隊の描写で、手早くキャラクターの格付けをすませる。どのような序列で権力をにぎっているのか、どのような心情で権力をもちいるのか。そのための僧侶と軍人の対峙で史劇的な雰囲気を出しながら、いきなりカンフーアクションをはじめたのは笑ったが。
 しかもその格付けされたキャラクターが、前半の途中でひとつの告白を発端としてひっくりかえっていく。視聴前にキービジュアルは見ていたがあらすじは知らず、実質的な主人公にあたる中心的なキャラクターが誰になるのか予想できなかった。
 この主人公像によって、映画は勧善懲悪のカンフーアクションにとどまらず、寺院を舞台とした贖罪のストーリーとして展開していく。軍閥が割拠する戦乱の時代のなかでも信念をつらぬこうとした小さな理想郷としての少林寺、その達成と限界を描いたドラマは予想外に感動的だった。
 老いたジャッキー・チェンの三枚目に徹したカメオ出演もうるさくなく、かといって出番不足でファンが落胆するほどではない*1だろうバランス。


 念のため、中国の権益を外国へ売りわたしてはいけないという描写や、強敵のひとりが弁髪なスタイルというところから、現代中国のナショナリズムにそった作品ではあるのだろう。
 しかし普遍的な反帝国主義反戦の構図におさめていて、中国映画の文脈にくわしくない観客としては引っかかりをおぼえなかった。もちろん、外国人にとっても飲みこみやすいからこその危うさもあるが。

*1:どちらかといえば、中国大陸の共産党政権へ接近しようとしている俳優自身こそファンに落胆されている。熱心なファンではない立場からしても、こうした映画を外国の観客として視聴する時のノイズになる。