法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

東日本大震災で自衛隊の陸幕長が独自に出動をはじめたことは、当時に首相だった菅直人氏の命令が遅かったことを意味しない

 能登半島地震の対応を評価するため、よく東日本大震災の対応が比較につかわれているようだ。
 しかし当時の時系列を無視したり、情報源の証言を読み違えているとしか思えない比較も散見される。


さらに言えば東日本大震災の時に初動72時間以内に一人でも多く人命救助しようとして己の首をかけて勝手に出動命令した陸幕長がいた。当時は最悪の悪夢の民主党政権だったから、あの規模で津波迄出て死者2万人規模の大災害なのに、陸幕が自己判断するまで出動要請すら出さない基地外首相だったんだよ


日経の参考記事を置いておきます:お読みください
business.nikkei.com

 しかし日経記事を読んでも、陸幕長だった火箱芳文氏が首をかけて出動したという証言と、当時に民主党政権だったことに強い関連は見られない。
陸上自衛隊トップ、辞任覚悟の出動命令:日経ビジネス電子版

でも、陸幕長は部隊の指揮権を持っていないのでは。

火箱:おっしゃるとおり、陸幕長は陸上自衛隊の部隊を指揮する権限を持ってはいません。自衛隊の部隊を指揮するトップは統合幕僚長(以下、統幕長)です。

災害派遣時は原則的には、都道府県知事からの要請を受けて出動します。ただし、緊急時には自主的に防衛大臣から統幕長に災害出動命令を発することができます。しかし、それを待つこともしませんでした。

統幕長からの命令を待っていては、救える命が救えなくなってしまうかもしれません。「どの連隊が出動可能か」「どれだけ出せるか」といった確認のやりとりを陸自、海自、空自のそれぞれとして調整する必要があるからです。

 私がとった行動は「越権行為」「超法規措置」として処分されてもしかたありません。頭の片隅で辞任の弁まで考えました。「大臣からお叱りを受けるならば、大臣を補佐する幕僚としては失格です」と。

 火箱氏が命令を待たなかった対象として特筆しているのは自衛隊トップの統合幕僚長だ。原則的に要請を出すのは知事であることや、防衛大臣が出動命令を出せることにもふれつつ、それらの遅れを批判しているわけでもない。
 同じ日経新聞から当時の首相動静を確認すると、大地震から約30分後には防衛大臣自衛隊の最大限の活動を指示していることがわかる。特段に指示や命令が遅れていたようには思えない。
首相「自衛隊は最大限の活動を」 宮城県沖地震で - 日本経済新聞

菅直人首相は11日午後3時半、宮城県沖の大地震を受け北沢俊美防衛相に「自衛隊は最大限の活動をすること」と指示した。

 プレジデントオンラインの下記記事で当時の民主党政権の初期の動きが整理されている。自衛隊の出動は原則にしたがいつつ菅氏は分刻みで対応しており、現政権と比較して「最悪の悪夢」という表現が正しいかは疑わしい。
阪神大震災。なぜ自衛隊出動が遅れたか | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

菅は3月11日、参議院決算委員会での審議中に大地震に遭遇した。4分後、首相官邸に官邸対策室を置き、20数分後に宮城県村井嘉浩知事から自衛隊派遣要請が届くと、北沢俊美防衛相に「最大限の活用を」と指示する。大地震の30分後に緊急災害対策本部を設置した。


 ちなみに日経の火箱インタビュー記事では「10万人体制」で動員したことが称賛されている。火箱氏も部隊をふりわけを考えて「一連の指示の甲斐があって、72時間後には3万人の部隊が被災地で活動していました」と自認していた。

自衛隊は「10万人体制」を展開。約1万9000人を救助しました。救助された約2万8000人(2011年3月20日時点)の7割に相当します。これは、自衛隊が発災から72時間で3万人近い部隊を現地に集めたことが効を奏したから。その背後には、火箱さんが辞任を覚悟で決めた「即動」が大きな役割を果たしました。

 しかし菅氏に対しては、自衛隊を多く動員しすぎたという批判もされている。なかでも元自衛隊自民党会派の福島県議、渡辺康平氏のツイートが注目をあつめている。


東日本大震災の際に時の総理大臣だった菅直人氏は被災地視察の結果、自衛隊定員20万人の半分にあたる10万人を派遣しました。
自衛隊の運用に総理が口を出した為、当時現場では人員が余っていたことを覚えています。
被災地では人員が余り、それぞれの基地や駐屯地は人手不足になった結果、何が起きたか。
東日本大震災後に周辺国による情報収集目的などのスクランブル発信は一気に増えましたが、災害派遣のため整備など対応する人員が足りないという切実な声や、陸自では実施するべき訓練ができず、練度を維持することができないという訓練幹部の悲鳴も聞いています。

典型的な「素人が口を出す」ことによる悪い意味でのシビリアンコントロールでした。やはり自衛隊の運用は自衛隊に任せるべき。

 たしかに当時の最高責任者であった以上、菅氏は自衛隊の選択にも責任を負うし、問題があれば批判をひきうけなければならない。しかし渡辺氏の証言は現場については具体的で興味深いが、運用については火箱氏の証言と齟齬がある。
 多数の動員を賞賛する文脈では自衛隊が運用したことになり、多数の動員を批判する文脈では菅氏が運用したことにするようでは、運用を誰にまかせるべきか論じることはできないだろう。