法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

朝日新聞の河川氾濫写真について、もっと情報の精度を増してほしいという要望は理解できるものの、速報の目的と限界が忘れられていることは気にかかる


大雨の影響で、滋賀県長浜市高時川が氾濫(はんらん)し、田んぼや河川敷が水没していました。午前9時47分撮影。(矢)

朝日新聞映像報道部の上記ツイートに対して、金沢大学准教授の青木賢人氏と、オイカワ丸の名義で知られる中島淳氏*1の指摘が話題になっていた。


これは見事な洪水制御の写真
単に氾濫しているのではなく,霞堤によって制御されている氾濫.浸水しているのは当初から氾濫が想定されいる遊水地となる場所.さらに,堤防として機能させることを想定して作られている道路もしっかりと集落への浸水を防いでいる.


これは見事な治水。絶対にあふれない治水はあり得ないということが昨今の災害で明らかになったこと。その前提の上でいかに人の命を守るか、いかに失う財産を減らすか、というのが流域治水の考え方。なのでこの記事は「霞堤が機能して町の水没を防ぎました!」と報道しないといけません。

それぞれ専門的な知識にもとづく指摘そのものに意義はあると思うが、その指摘を知った反応として氾濫として報じるべきではないかのような意見があつまっているのは良いのだろうか。
b.hatena.ne.jp
togetter.com
そのような機能をもつ堤であることの解説と、それと知らずに遊水地にとおりがかりかねない通行人への速報的な注意喚起では、また性質が変わってくる。数日後、そのように指摘する匿名記事も注目をあつめていた。
anond.hatelabo.jp
そもそもTogetterにまとめられたツイートを見ても、中島氏などは被害を完全にふせいだという評価はしていない。人命がうばわれないことを大前提としつつ、被害を分担していく社会の問題でもあることを明言している。


はい、おっしゃる通りと思います。失われる人の命をゼロにする、ということが前提になりますが、その上で、誰がどのように被害を分担するのか、お金で解決できる部分はどこまでなのか、というところをその場その場の事情も加味しながら話し合って決めていくしかないのだろうと思います。

遊水地全体に水があふれているということは、それ以上の余裕を失った状態でもあるということ。冒頭のツイート時点が最大の被害と判断できる状況ではなかった。
あふれて安心というわけでは当然なく、冒頭の写真もつかった朝日新聞本体のくわしい続報によると、河川全体では床上浸水が5件あったし、道路の崩落なども発生したという。
www.asahi.com
冒頭の写真単体について、堤がどのくらい機能しているかをくわしく報じることも、たしかに状況を正確につたえるためには有意義だろう。
しかし朝日新聞を批判する少なくない反応を見ていると、報道の目的や優先順位を見失って、ためにする批判をしているように思えてならない。


批判のための批判になっている実例として、2019年の朝日新聞記事に対して、水没したのは水害対策用の場所だったという主張もTogetterにまとめられていた。


たしか朝日は2019年の水害で、どこかの川のラグビー競技場が水没?してワールドカップの日程に影響が出たときもこんな報道してたよね。
「いやいや、そこはもともと水害対策用の場所でして。そこを有効活用するために競技場があるだけのハナシなんですけど?」って。


鶴見川に隣接する新横浜公園ですね。
weathernews.jp

各種スポーツの日程へ影響が出たことをつたえる朝日新聞記事は見つけたが、たんたんと水害に影響されたスポーツ界の対応をつたえる内容であって、そもそも治水の成功失敗を論じる内容ではない。
www.asahi.com
それどころか、ラグビーワールドカップの横浜会場が氾濫防止のための機能をもつこと、それで予定どおりに試合がおこなえたことは、翌日に朝日新聞もくわしく報じていた。
www.asahi.com
これは単純な記憶違いによる批判なのかもしれない。しかし、災害が発生している当日の速報と、社会に影響が出ていることの説明、そして後日の検証とで、報道の性質が変わることを失念した結果でもあるだろう。

*1:はてなアカウントはid:OIKAWAMARU