標的となった記事は、30年前の赤報隊事件を回顧する特集の一環。報道のおかれた厳しい現状をふりかえる内容だ。
こいつは記者だ!頭に角材 報道に敵意、世界で噴き出す:朝日新聞デジタル
赤報隊事件を意識してか、この記事は直接的な暴力がくわえられたり、一般の敵意が向けられたりした事例をまとめている。もともと報道とは対立関係にあるはずの政治権力による弾圧とは、そもそものニュアンスが違う。
昨年2月、ギリシャの首都アテネ。中心地の大通りを、年金カットに抗議する人たちが進んでいく。取材していたラジオ局「アテネ9・84」の記者、ディミトリス・ペロスさん(40)は列にいた黒覆面の男に、記者かどうか尋ねられた。
「そうだ」と答えると、「こいつはジャーナリストだ!」と指をさされ、突然角材で頭を殴られた。半日後、目を覚ました病院で医師から告げられた。「打ちどころが悪ければ、命を落としていた」
この暴力が向けられた事例にしても、報道側の自己批判的なニュアンスが記述されており、単純な自己弁護とは異なる。
長年放漫な財政を続け、危機を招いた政治家と並び、批判の的になったのはジャーナリストだった。「ジャーナリストが怠慢で真実を伝えなかったから、危機に陥ったと国民は考えている」。ペロスさんは自身への暴行もメディアへの不信感の高まりゆえに起きたと思っている。
しかし、はてなブックマークを見ると、むしろ報道へ暴力を向けることを扇動するコメントが複数ある。
はてなブックマーク - こいつは記者だ!頭に角材 報道に敵意、世界で噴き出す:朝日新聞デジタル
たとえば、当時の監督責任者が処分されて社長も辞任した珊瑚礁捏造記事を示唆するコメントもある。
id:h1roto 「こんにちは。あのときのサンゴです」(角材を持ちながら)
たとえば従軍慰安婦問題でデマを流して撤回もしていない安倍晋三首相に、同等以上の攻撃的な態度を向けるのだろうか*1。
さらに、なぜか韓国における産経支局長起訴事件をとりあげるようにうながすコメントまであった。
id:toririr 別にいちゃもんつけるわけじゃあないんだけど、韓国での産経記者逮捕も別の記事でいいから取り上げないと他意あると見なされるかもしれんね
しかし上述したように、産経支局長の逮捕起訴は、今回の朝日記事でとりあげられた事例とはニュアンスが異なる。
そもそも2014年と過去の出来事であり、もちろん同時代において朝日新聞も報じている*2。
はてなブックマーク - 産経前ソウル支局長を在宅起訴 「朴大統領の名誉毀損」:朝日新聞デジタル
無罪判決が出た時も報道していた。事実上の韓国大統領の意向による起訴とみなし、韓国の民主主義の傷と批判していた*3。
はてなブックマーク - 日韓、無罪の力学 異例の配慮要求も 産経前支局長判決:朝日新聞デジタル
はたして「見なされるかもしれん」とtoririr氏が想定している「他意」とは何のことだろうか。私にはいちゃもんをつけているようにしか読めないのだが。
*1:高木健一氏が池田信夫氏を告訴したらしいので、安倍晋三氏が流したデマについて指摘しておく - 法華狼の日記
*2:http://www.asahi.com/articles/DA3S11364526.htmlのような別記事もある。
*3:ちなみに、無罪判決をつたえる主要4紙を読みあわせたWEBメディア記事では、朝日新聞がもっとも強く韓国を批判しているという評価がされている。韓国が異例の配慮。産経前ソウル支局長の無罪を各紙はどう報じたか? - まぐまぐニュース!