法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

劇場版『モノノ怪』から橋本敬史氏が降板した経緯が、とにかくつらい

原型的な作品『怪~ayakashi~』「化猫」からキャラクターデザインをつとめ、発展したTVアニメでビジュアル全体を牽引した橋本氏が、劇場版から降板した経緯をツイートしていた。
togetter.com
製作側の説明としては、元ノイタミナプロデューサーで現ツインエンジン取締役の山本幸治氏により、降板させた視点でnote記事が発信されている。
note.com
togetter.com
今回は橋本氏側が以前から説明していたことだが、後から取り消すことができないアウティングになりかねない情報が書かれていること自体が、深刻さをうかがわせてつらい。
橋本氏が回復することをひとりの視聴者として祈っているし、きちんと投薬治療をつづけていたことも知っているし、それゆえ安易な楽観も悲観もつつしむべきだろうと思う。
ツイートやリプライで希死念慮をくりかえし公言していることも気にかかる。一種の脅迫のように受けとられがちだが、実行にうつしかねない危険性もある。
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フリーランスが一般的な業界のありようが、症状を重くして福祉を遠ざけ治療を遅らせた可能性なども想像してしまうが、外部から安易な判断もできない。


ただ、一般的にこのような状況になった時、最も苦しんでいるのは橋本氏と考えるべきだが、周囲がそれにひきずられる必要もない。
小さな苦痛や不満に耐えられなくなるほど心身が過敏になった場合、被害者意識から周囲への攻撃的な言動にいたることがある。その苦痛をうったえる文章も、ツイートくらいの文字数なら説得力のある短文を書けても*1、相手の意向も考慮した客観的な長文を書く能力は弱まっている。
異論を受けつける心身の余裕も失われている。少し文脈のこみいった説明をされると、それを理解する努力そのものが苦痛になり、被害者意識を増大してしまう。どれほどていねいでも反論をおこなえば、それ自体が敵意を生みだしてしまうし、主張の矛盾をつきつけられたとしても間違いを認めるとは限らず、最初の主張に戻るだけで徒労に終わることもしばしばだ。どれほど親身になっても、実りのある議論や会話は難しい。
同時に注意したいのは、過敏ゆえに不満や苦痛に耐えられなくなったことは、その不満や苦痛が存在しないという意味ではないこと。周囲からは不当な主張に見えても、慣例として許容され無視されていた問題を過敏さゆえに気づけている場合もある。しかし同時に、その問題ひとつを解消して苦痛がいったん緩和されても、心身の過敏さはつづいているので、またすぐ別の苦痛や不満をうったえる。それが周囲の徒労感を生んだり、妥当なうったえまでふくめて不当なうったえであったかのような印象を生みだしてしまう。
いずれにしても、苦痛のうったえが妥当か不当かは個別に判断しなければならないし*2、その問題の解決とも独立して苦痛を解消しなければならないだろう。とにかく大変な話になるが。

*1:技術などの能力が完全に失われるわけではないので、職人としては過去と比べても悪くない成果を出せたりもする。橋本氏ほどのアニメーターなら、山本氏らの説明が事実でも、現在のアニメ業界では引く手あまただろう。

*2:ただ、あまりに膨大なうったえになると、その判断を個別におこなう負担も大きくなる。