紅茶店で杉下右京は浦神鹿に再会する。まだ小説を一行も書いていない浦神だが、天才ではないと自覚して参考となる本を読み始めたのだという。そのなかに読者の視点の役割りが期待される登場人物が読者を裏切るパターンがあったという。
自身の家族が被害者となった放火殺人の調査を特命係にうながす浦神。実際に杉下が捜査してみると、たしかに被疑者死亡という結論に疑問が出てくる。しかも浦神の周辺には恋愛感情のもつれとされる放火殺人が多数あり、アリバイを浦神と友人が証明しあっていた……
同じ真野勝成脚本による前シーズン最終回SPに登場した、若き政財界のフィクサーが再登場。
監督は橋本一で、冒頭の河川敷の火災にはじまり、浦神の廃墟のような本拠地や、逆光を多用した撮影など、このドラマとしては事件の規模に応じて雰囲気ある絵作りをしていた。
『相棒 season23』第19話 怪物と聖剣~決戦 - 法華狼の日記
杉下のライバルのようにふるまう浦神鹿も、あたかも今後も対決がつづくように結末でにおわせているが、犯罪をゲームのように楽しんで高笑いする平凡な犯人キャラクターで新鮮味がない。
内容については、真野脚本回で描写されがちな慈善活動への安易な偏見はなかったし、以前のタカハシと違ってキャラクターを使い捨てないことはいい。
しかし、そもそも浦神のキャラクターにまったく魅力がない。何の利益もないのに杉下を挑発して、利用した仲間だけでなく自分自身が放火殺人に手を染めたことを暴かれ、政財界のフィクサーという立場を失って逃亡犯になって終わる。サイコサスペンスなら、狂ったキャラクターなりの狂った論理が解明されて奇妙な行動に説得力が生まれるのに、少なくとも今回の浦神には杉下に自分たちの犯行を調べさせる理由がいっさい見えない。
当時に警察を騙した遺書についても、被疑者との関係の近さから同じ筆跡を浦神が偽造できたというだけで、ほとんど浦神が誘導するままに杉下は一直線で真相に気づく。犯人に誘導されるように正答しただけでは、名探偵らしい推理力を発揮したとは感じられない。
このドラマでは徳永富彦脚本で、同じように謎めいた悪のカリスマ南井十が連続ストーリーで描かれたことがあった。
『相棒 season16』第7話 倫敦からの客人 - 法華狼の日記
しかし各話のミステリとしての出来が悪くなかったし、最終的に明らかになった狂った論理には異様な説得力と意外性が両立していた。
『相棒 Season18』第15話 善悪の彼岸~深淵 - 法華狼の日記
今回の浦神鹿も、同じように奇妙な行動に説得力のある動機を明かしてくれれば、今回の疑問点は爽快感に変わる余地はあるのだが……