法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

半世紀前のNHKによる軍艦島ドキュメンタリ『緑なき島』について、あらゆる意味で問題はないと国会でNHK側が答弁していた

1955年にNHKの制作した短編ドキュメンタリ『緑なき島』。
当初は軍艦島関係者からも好意的に紹介されていたが、朝鮮人徴用工の被害を否認したがる人々によって、2019年ごろから攻撃を受けるようになった。
hokke-ookami.hatenablog.com
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その攻撃はいまのところ広がってはいないが、政治家も巻きこみ、くすぶりつづけている。
そして国会の議題にもなり、政治家の質問に対してNHK側が反論したことが一部で話題になっていた。
めぼしい報道は見つからないが*1、国会議事録検索でたしかめ、議事録として公開されていることがわかった。
世界遺産の登録時の約束を日本が履行していない問題が、登録したユネスコから批判されている現在*2だからこそ、紹介したい。


まず2021年3月に自民党衆議員の杉田水脈氏が「韓国が主張する強制連行被害の証拠として利用されてきた側面があると言っても過言ではない」と質問。
それに対して、NHK副会長として正籬聡氏が回答。古い取材ゆえに検証が難しいかと思いきや、複数の撮影素材を確認調査して、問題ないと結論づけたようだ。
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120405272X00120210225

「緑なき島」に関する御指摘を受けて、関係する資料の確認ですとか、取材、制作に関わった部署の関係者などからの聞き取りですとか、昭和三十年以前に撮影されて保管されていた炭坑の映像の精査など、できる限りの確認作業を行いました。
 その結果、御指摘のような、例えば別の炭坑で撮影されたとかそういった映像が使用されたという事実はございませんでした。

過去の映像、これは百四十本近くあったんですけれども、それも精査いたしまして、そこから、別のものを持ってきたという事実は確認されておりません。

同時期の別炭鉱の映像素材をつかった可能性もあると私は思いつつ、それは朝鮮人ら徴用工の犠牲への反論にならないと考えていた。
しかし、そもそも元島民の証言と違って、NHKは実際に端島炭鉱内で撮影できていたようだ。


同年5月に、同じく自民党衆議員の務台俊介氏が質問している*3。杉田氏への反論は無視するように、杉田氏が求めた対応をしているか問うている。
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=120404601X01820210527

 過日、杉田水脈委員が、軍艦島が舞台の、昭和三十年に放送された「緑なき島」の映像に関して質問をしておられました。一部の映像が別の炭鉱で撮影されたものだと元島民が抗議している問題でございまして、その抗議の原因は、韓国メディアなどにより、朝鮮人戦時労働者が非人道的な扱いを受けていた根拠として引用されていることによります。元島民は、軍艦島の誤ったイメージが解消されることを求めております。これも、NHKが影響力のあるメディアであるからこその結果でございます。
 であればこそ、NHKは、その事実関係を検証し、その上で、韓国側にその取扱いを改めるようにあらゆる手段を使って行動すべきと考えますが、杉田委員が過日質問をした以降のNHKの対応を伺いたいと思います。

これには元国家公安委員にしてNHK会長の前田晃伸氏が答弁。歴史的な制約への言及はあるが、「誤ったイメージ」ではないことを重ねて確認したらしい。

 元島民の方々からの御指摘を踏まえ、NHKとしては、取材、制作に関わった関係者への聞き取りや、保管をしております炭鉱の映像の精査など、できる限りの確認作業を行ってきたところでございます。
 その結果、別の炭鉱で撮影された映像が使用された事実は確認されておりませんで、「緑なき島」は、当時の取材に基づき制作されたものと考えられるという報告を受けております。
 これまでの確認作業はNHKの関係者や保管している映像などが中心でございましたが、六十六年前に制作された番組であることから、最近制作された番組に比べると、確認作業には制約が多数ございました。更に確認作業を深めるために、外部の有識者の意見を伺うことを含め、自らの責任で調査を進める上で、具体的に何ができるか検討するように指示をいたしました。その際、十分に元島民の方々に向き合うようにも指示をいたしております。

『緑なき島』の映像が歴史的な資料として韓国でつかわれていることについて、保護期間の関係で合法だという回答もされている。法的には引用の要件を論じるまでもないようだ。

風土記的な番組の趣旨とは関係なく、「緑なき島」の映像の一部が韓国の施設で展示されていることは承知いたしております。これについて韓国の法制度に詳しい外部の専門家に確認したところ、「緑なき島」の映像は、韓国の法律上では著作権の保護期間が二〇〇五年に満了しており、NHKの著作権が主張できない可能性が高いということでございました。
 こうした状況の中で、NHKとしてどのような対応ができるか、引き続き検討するように指示をいたしました。

考えてみれば半世紀以上前の作品は、日本でも少なからずパブリックドメインだ。引用でなく転載であっても合法的に利用できる場合すらあるだろう。
これまで補償を求める徴用工に対して、法的義務を日本政府は否定してきた。和解という選択を選んだ日本企業を制止することまでおこなった。
それほど現行の法律を盾にするなら、その政府の態度を支持した人々もふくめ、どのように『緑なき島』が韓国でつかわれても甘受するべきだろう。

*1:夕刊フジNHK側の反論を無視するように同じ主張をくりかえし、「議論は平行線をたどった」と評した記事はある。 www.zakzak.co.jp

*2:www.asahi.com

*3:他にも自民党和田政宗氏が質問した例などがある。元NHKアナウンサーだが、杉田氏らと同じく極端な保守派だ。