法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ときめきメモリアル』

藤崎詩織という少女が高校生活の終わりを目前に、穏やかな時をすごしていた。ある日かかってきた間違い電話の少女と、藤咲は何気ない会話を始める……


1994年に大ヒットした恋愛攻略ゲームを、ブームがおちついた1999年にベテランスタッフでアニメ化*1。各巻が約45分で全2巻というフォーマットは最初期のOVAのよう。

ときめきメモリアル vol.1 [DVD]

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  • 発売日: 2000/03/03
  • メディア: DVD
ときめきメモリアル vol.2 [DVD]

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  • 発売日: 2000/03/03
  • メディア: DVD

キャラクターデザインも『六神合体ゴッドマーズ』や『超電動ロボ 鉄人28号FX 』の本橋秀之がつとめ、線を重ねてハイライトを強調した絵柄は当時でもやや古め。しかし原作ゲームのキャラクターデザインが記号的で単調なので、相対的に華やかな印象がある。
監督は本橋と縁が深い亀垣一だが、全2巻ともコンテ演出は西澤晋。西澤コンテらしく、縦横の直線を重ねたレイアウトが高級感ある。小津安二郎監督作品のようだ。動きのすごさで魅了する作画アニメではないが、バスケや水泳といった難しいシーンもふくめて全体のトーンが統一され、精緻に描きこんだ背景の情報量もあって、映像に充実感があった。
2巻冒頭の立食パーティーも、ちゃんとウェイターがグラスや食器をサーブして、人間の密度感ともどもアニメには珍しくリアリティがあった。いくつかの設定は別スタッフの仕事かもしれないが、洋画を多数鑑賞分析している*2ことがコンテに反映されているのかもしれない。


巨大ロボットなども短時間登場するが、基本的には地に足がついた現実感ある出来事だけで物語を構成。特に1巻目はヒロインに対置される少年をエンドロールまで不在にしたまま、主に少女主人公視点で少女同士の物語が進んでいく。
そもそも恋愛感情を表に出さないキャラクターばかりで、性的な描写もひかえめ。せいぜい短い入浴カットと、体育座りで下着が少し見えるカットくらいで、どちらも動きなどで目立たせたりせず、女性向け作品でもありうるレベル。
1巻は本橋秀之作画監督も担当して映像がシャープ。整った絵が上品さをきわだたせている。ただし2巻は時矢義則が担当して、全体がゆるく柔らかくなった。少女同士の交流を重視した1巻と比べて、より恋愛による青春の充実を描いた2巻は平凡。しかし、やはり相手の少年は明確には姿をあらわさない。どちらにしても主人公を不在にすることで、少女が主体のドラマとして再構成されていることが興味深かった。

*1:脚本担当の黒田洋介は若いが、すでに当時シリーズ構成を複数つとめている。

*2:近年は更新が止まっているが、ブログが充実している。西澤 晋 の 映画日記