法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

はてな界隈で人気があったガメ・オベール氏という人物が、何をきっかけに失墜していったかをふりかえる

そういえば珍しく巻末に参考文献を載せていない「歴史の本」があって、それでウソがばれた出来事があったね - 法華狼の日記
上記エントリで思い出したガメ・オベール氏が、id:Apeman氏に批判されるようになった経緯を歪曲しているようなので、2010年の当時に私が見ていた順序を紹介しておく。


実はアホらしいので一度もちゃんと見た事がなかったが、能川元一の悪あがきにつられてボーフラみたいに浮き上がってきた厚顔はてな人を見ると、


ゴボウ裁判記録はない→なぜならガメオベールはニセガイジンだから→ニセガイジンである証拠は能川元一が断定していたから、という事かな?


だんだん判ってくると
能川「おれがそう思ったからガメ・オベールはニセガイジン」
はてな一同「ニセガイジンは事実だから国籍を偽るガメ・オベールの言う事は全部ウソ
新しい人「ほんとなんですか?」
はてな全員「きみは若いから知らないだろうけど皆が知ってる事実」


というロジックだったんだね

まず「はてな人」なる集団だが、はてなダイアリーで書いていたこともあってか、当初はガメ・オベール氏の愛読者も多かった。後で紹介する当時のダイアリーを見れば、はてなユーザーが好意的にコメントしていることも確認できるだろう。
失礼を承知で私個人の印象論をいえば、平易な文章で世相を語るガメ・オベール氏には広いファンがいて範とされていたタイプだったが、敏感な話題で峻厳な立場を選んでいたApeman氏は範とされてもファンは少なく反発もされがちなタイプだった。
ゆえに論争の途中までは、Apeman氏とガメ・オベール氏の双方へ敬意を表明するはてなユーザーも多かった。


私が知るかぎりApeman氏が最初にガメ・オベール氏へ批判的なコメントをしたのは、戦犯ゴボウ問題ではなく、靖国問題だった。
2010年の当時に、Apeman氏自身が、論争の発端からガメ・オベール氏の文章を引いて、それぞれの経過をまとめている。
「事実であろうと、なかろうと」PartII - Apeman’s diary

・1月17日、ガメ氏が「ついでに国民のほうは「隣の国がうるせーで、あの死んだにーさんたちが集まってる神社はなかったことにすべ」とゆいだした。」「そーゆーのをゴツゴーシュギというんじゃ、ボケ。」と発言。この「ボケ」はいうまでもなく日本国民の一人たる私にも向けられていることに留意されたい。
・同日、私が「へぇ。それ誰のこと?」とブコメ

次にApeman氏は1月21日、上記とは独立してコメント欄で戦犯ゴボウ問題の根拠について質問しようとしたが、承認されなかったという。
そのコメントは掲載をためらわせそうな長文ではあるが、ていねいな言葉で、批判ではなく質問として書かれていた*1

初めまして。


>前にも記事に書いたが、バターンの死の行進の監視の役割についていて、なけなしのきんぴらごぼうを捕虜に勧めたせいで(捕虜虐待の罪状で)処刑された日本の若い兵隊や


これは
http://d.hatena.ne.jp/gameover1001/20081018/1224343818
で書かれていた件ですね? 「戦後の日本人BC級戦犯の裁判記録」をお読みになったとのことですが、どの法廷で行われた裁判だったかご記憶でしょうか?
というのも、「ごぼうを食べさせて戦犯に」というエピソードについては以前に少し調べてみたのですが、「ゴボウを分け与えたせいで戦犯として死刑を言い渡された日本兵」という事例は確認できなかったからです。

判決理由のついた裁判記録が存在し、かつその判決理由で「ごぼうを食べさせた」ことのみが有罪の決め手となり、判決が死刑だったとすると、上述したような私の調査には不備があったことになります。というわけで、ご覧になったという「記録」についてご教示いただければ幸いです。

しかしガメ・オベール氏は、「意見が反対だろうがなんだろうが、失礼でないかぎりは載せておる」とコメント欄の方針を説明しつつ、下記のような理由で承認しなかった。
2010-01-21 - ガメ・オベールの日本語練習帳iii-大庭亀夫の生活と意見

載らないひと、っちゅうのは理由はひとつで日本のひとに特異なタイプではないかと思うが、他のところ、たとえばブックマークのコメントとかで思いきり失礼なブタ野郎コメントを書いておったくせに、ヘーキでコメントを書いてくるひとです。

あれ、多分、自分で自分がいかに失礼なクズ野郎か、わからないのだな。

これに該当するひとは、コメント、そもそも読んでねーよ。

まっすぐゴミ箱行きです。

ここ2、3日でいうとkoisuru_otoutoとApemanとかいうひとびとがそれに当たるのい。

わっしは真剣にわからんが、日本人は自分が無礼な口を利いておって、「自分の言うことに答えられないのか」とよく言うが、あれは文化的な習慣なのだろうか。それとも本人が頭が悪いだけかしら。

ともかく。

おめーらみたいな失礼なマヌケが書いたコメントを読むわけねーだろ。くだらねークソ日本語で礼儀のかけらもないよーなクソコメントを書いておいて、いまさらこたえてもらおうとかって、頭がいかれておるであろう。

アホかよ、それともおまえのチンコ頭では、自分だけはなにゆってもいいとおもってんのかボケ、と思料いたしましたので、あしからず。

ガメ・オベール氏が不特定多数へ「ボケ」と評価し、Apeman氏が「へぇ。それ誰のこと?」と応じた時点で衝突が始まったとはいえるだろう。
しかし、相手の全人格を対象にして批判を始めたのはガメ・オベール氏が先だったし、その表現も罵倒に満ちた攻撃であることも指摘せざるをえない。
念のため、批判や反論する時の表現として罵倒を選ぶことそのものは自由ではあり、批判や反論の妥当性と独立している。しかし表現の攻撃性がなくなるわけではない。


また、戦犯ゴボウ問題をガメ・オベール氏がフィクションとして語っているという擁護は、1月23日の時点でも第三者のコメントにおいて確認できた。
しかしその観点をガメ・オベール氏は採用せずに、「研究者」というプロフィールを称して、事実性で争う立場を選んだ。論争が終結したころの2月1日にid:Wallerstein氏がエントリにまとめている。
一連の問題の所在 - 我が九条

ここでPANDORA氏やgouk氏の思い描いていたガメ氏像とは全く異なった動きを始める。要するにガメ氏は自身が実は研究者であり、しかもあくまでも「裁判記録」を読んでいた、ということを主張したのだ。

「裁判記録」を読んでいなかったことを素直に言えばそれでよかったのである。そうすればこんなに大騒ぎになることもなかっただろう。プライベートモードに入ることも、アカウント削除も起こらなかったし、むしろうるさい「はてサ」Apemanに絡まれた気の毒な人、として支持すら集め得たであろう(笑)

しかも研究者と自称するコメントを書きこんだのは、Apeman氏ではなくid:kamayan氏のコメント欄だった。
2010-01-23 - カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記/はてダ版

ブログには書いてないが、わし自身が研究者(もちろん歴史ではないが)なので研究者の手順に従って論争しようというのなら、(kamayanさんの真正研究者保証つきなら)、
メンドクサイが相手にしてやってもよい、と思いました。
ただ、わっしがむかし研究者として在籍したことのある大学の先生(たまたま歴史の先生、セイヨーシだが)の見立てでは「ただのゴロツキ。自分のブログを有名にするために、きみを利用しようとしているだけでしょう」ということだったので、ちょっと、このひとの著作リストを教えて欲しいと思います。

kamayan氏は「ガメさんのブログをもう読むことができないこと、これは悲しいのであります」と表明して、具体的な高評価もするくらいにガメ・オベール氏のファンだった。
そしてガメ・オベール氏は1月24日、自身のダイアリーにおいて根拠となる書籍を提示した。しかしApeman氏へ通知されない形式であり、これを読むと期待できるのはダイアリーの読者だけだった。
【魚拓】ヒラリー・クリントンの奇妙な提案 - ガメ・オベールの日本語練習帳iii-大庭亀夫の生活と意見

ごぼう」なひとびとのほうは、ブログ、読みました。
ドマジメなだけのひとなのかも知れないので、簡単に書いておきます。
プライベートモードのいちばん最後に出ていたメッセージ
岩川隆「神を信ぜず」立風書房(文庫はダメ)「末尾参考図書」に挙がっていると思うよ。
あれは送ってもらえるんです。行かなくてもダイジョブ」
もし自分でとれなければ、わっしはBC級戦犯の資料がおいてあるところへ今年はなかなかいけないが、そこへ行ったら資料を送ってあげられると思う。
英語だが、読めるでしょう?
しかし、わっしはあなたがマジメなひとにしても、あの失礼なコメントはいやだな。
口元が汚い。

もしガメ・オベール氏が偽りの根拠でApeman氏をからかったのならば、Apeman氏が読むと期待できるかたちで書いたことだろう。そうでなくても、いわゆる「ネタにマジレス」されたことへの返答であれば、ネタで返すにしてもマジで返すにしても、もっと違った文章になりそうだ。
しかし現実には読んでのとおり、信用している読者へ偽りの根拠を事実のように提示したかたちとなった。これでは、ガメ・オベール氏が意図したかどうかはさておき、からかわれているのは愛読者だけだ。
ゆえに『神を信ぜず』の巻末に参考文献などないという1月29日のApeman氏の批判によって、擁護したり信用しようとしていた人々が、一気にガメ・オベール氏への批判へかたむく結果となった。
武士の情けで黙ってたんだけど、しかたない(追記あり) - Apeman’s diary
はてなブックマーク - 武士の情けで黙ってたんだけど、しかたない(追記あり) - Apeman’s diary
はてなユーザーのガメ・オベール氏への決定的な評価が、「ニセガイジン」と無関係なことがわかるだろう。
ガメ・オベール氏も失敗したとは思ったのだろう。『神を信ぜず』を提示したエントリを新しいブログに転載しながら、戦犯ゴボウ問題にまつわる記述は削除している。
読み比べてみよう! - Apeman’s diary
こうして当時の争点を隠しながら、ガメ・オベール氏は最初に引用したようなツイートをしているわけである。


なお、ガメ・オベール氏が自称するとおりに「コーカシアン」なのか、英語が「母国語」なのか、私には断言できる能力や材料はない。
その外国人キャラクターを初めとした自称を事実と信じられる要素はないが*2、マイケル・ヨン氏やケント・ギルバート氏のような外国人がいることも事実だ。
しかし、そもそもそこは主要な争点ではなかったのだ。外国人という自称にApeman氏は当初は言及していないどころか、批判はプロフィールへの懐疑ではないことを、1月23日の時点で説明していた*3
2010-01-23 - カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記/はてダ版

自称しているプロフィールを疑っているということではありません。エピソード主義で「日本人」について語るという手法や日本特殊論(「日本語は不完全な言語だ」なんてのもそうです)、それから「キンピラゴボウ」の件についての書き方(情報ソースが怪しげであることを含め)などを指して言っています。

Apeman氏が興味を表明したのは、ガメ・オベール氏自身が論争中に自身の母語をもちだしてからで、これは1月27日のことだ。
ガメさんとApemanさんへ - カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記/はてダ版

ここで私が以前の立場を若干変更したことを表明しておきます。gameover1001の国籍やエスニシティについて私は一切関心がありませんし、いかなる詮索をする気もありません。また、次に述べる一点をのぞいて彼のその他の属性についても関心はありません。

ガメ・オベール氏が自身の英文を「英語が母国語の人間が読めば、どんなバカでも英語を母国語とした人間が書いた、とわかる」と自己評価したことに対して、Apeman氏は「日本語をもとに書かれたとわかる英文」と評価した。

もちろん母語がなにであるか(なにでないか)と国籍ないしエスニシティとは別の問題です。しかし靖国問題BC級戦犯裁判についての上記のような粗雑な発言が、「誰によってなされたのか?」は政治的には無視しがたいことです。今回はこれ以上追求するつもりはありませんが。

そしてガメ・オベール氏が英文についてのみ反駁したコメントに対して、Apeman氏は下記のように返答した。けして英作文能力を低評価してはいないし、話題として重視していないこともわかる。

自分が書くような英語とネイティヴの英語の違いはわかる。あなたの方が英語を書くことに関しては達者であることも、ね(あれをすらすらと書いた、のであれば)。
それよりこちらの具体的な指摘に対して一つでもいいから返答してみたらどうなの?

Apeman氏がプロフィール全体へ疑いを向けたのは、もちろんさらに後日のことだった。そこまでにガメ・オベール氏が研究者を称しつつ、大学の西洋史の先生の言葉を引くかたちでApeman氏を「ゴロツキ」と評価していたのだから、Apeman氏が疑いを表明するのも当然だろう。


最後に、ガメ・オベール氏に特異な文才はあるのだろうとは考える。ブログの文章はくだけながらミスがほとんどなくて読みやすいし、その内容を楽しむ読者も多数いた。
いったん批判を逃れるようにブログを変えながら、批判されたアカウントと連続性をたもったまま新しい愛読者を獲得していることも、なかなか真似できることではない。
もし最初から全てが虚構という立場を選んでいれば、もう少し良いかたちで文才を活用できたかもしれない。攻撃的な小説家が美麗な作品を創造することはよくある。
しかしガメ・オベール氏は虚実さだかではない立場を選んだ。残念なことだ。

*1:引用枠を分割しているように、引用時に中略した。保存しておいたというApeman氏によって、後述のid:kamayan氏のコメント欄で第三者にも提示されている。ガメさんとApemanさんへ - カルトvsオタクのハルマゲドン/カマヤンの燻る日記/はてダ版 提示後のコメント欄にガメ・オベール氏も書きこみしながら、その提示が虚偽であるとの主張がされなかったことから、Apeman氏は承認されなかったコメントを改変していないと判断できる。

*2:現実とは異なる「寓話」の登場人物としてふるまっているならば、それは事実ではないということ。

*3:先にApeman氏自身のエントリのコメント欄でも、「もしかすると」「偽ユダヤ人」というid:gerling氏のコメントに対して、プロフィールの懐疑には同調せず「まあ正体なんかはどうでもいいんです」と応じている。これはまたみごとな馬脚ですね(追記あり) - Apeman’s diary