法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

疑似科学(の一分野)が甘やかされている一例

個々人が別個の問題にもとりくむべきという話ではなく、疑似科学に歴史修正主義がふくまれることを理解するべきという話 - 法華狼の日記の補足として、はてなブックマークのコメントを具体的にとりあげる。
はてなブックマーク - apesnotmonkeys on Twitter: "歴史修正主義をスルーしておいて疑似科学を批判しても無意味、ということにそろそろ疑似科学批判クラスタは気づかれたであろうか。"
前提として、同じ「スルー」といっても、個人が批判しないという選択と、保留を表明する選択と、許容を表明するという選択では、かかる責任が異なる。
そのどれなのかが問題にされているApeman氏のツイートひとつではわからない、といった批判や疑問は可能だろう。
そこで実際に許容の表明としての「スルー」がおこなわれている事例を見ていきたい。


まず最初にコメントをつけているid:fnorder氏だが、あまり他人事と考えるべきではない。

fnorder Twitter 歴史修正主義 ニセ科学批判批判 とりあえずブックマーク。何があったんだろう? 2014/09/07

過去に731部隊に言及したことを忘れているのだろうか。
はてなブックマーク - 「731部隊展2013」 - Apeman’s diary

fnorder 「悪魔の飽食」が事実関係について怪しいところがあるのも事実なので悩ましい。真空に晒す実験とか、明らかにおかしかった。 2013/08/06

直前にsink_kanpf氏のコメントで「写真はインチキばかりなので全部インチキ的な事を言ってた人達がいた」と『悪魔の飽食』が言及されているとはいえ、それをもって「悩ましい」と評するのは良くない。おそらく、真空でも人が破裂したり即死することはないという知識を、急激な減圧で粘膜等から出血を起こしたりすることへの反証と勘違いしているのではないかと思う。
また、fnorder氏は積極的な許容を表明していたことがあった。以前にエントリでとりあげたことがあるので、再掲しておく。
情報の真否だけを問うか、情報の提示や検証の責任も問うか - 法華狼の日記

歴史修正主義とニセ科学 - fnorderの雑記(日記じゃない)

(自然科学系の)ニセ科学は鼻で笑う人が日本近代史(南京大虐殺とか従軍慰安婦とか)の否定論を信じてたりするけど、こういうのは要するに『知らないから』だとずっと思ってきた。だから不思議には感じないのだよねえ。

問題にしたくなるのは、反歴史修正主義の人が怪しげなネタに飛びつくこと。あんたらケッタイな否定論には乗らへんやんか、なんでそっちには乗ってしまうん?と思えてならん。

むしろ「ニセ科学は鼻で笑う人」は「知らないから」という解釈ですませられるのに、「反歴史修正主義の人」に「知らないから」という理由を考慮しないことが、私には理解しがたい。

fnorder氏とはコメント欄でやりとりしたことが何度かあり、今回が自身を省みるきっかけになれば幸いだという心情があるが、これこそ甘やかしかもしれない。


次にsalmo氏*1コメントだが、Apeman氏が科学にまつわるエントリも書きつづけていることを知っているらしいのに、なぜか分野間の上位関係を読みとっている。

salmo はてな左翼? 2年も使って一般大衆への嫌味のネタにしかウナギを理解できてない人に言われてもね。お偉い歴史修正委主義批判にその他の分野は頭を垂れろってか?兎に角、マウンティングしたがるって文字通りサルかよ。 2014/09/09

歴史修正主義疑似科学の一分野であるという前提に立つならば、一分野を批判することが全分野を批判することより上位にあるわけではないとわかるだろう。とはいえ、そうした前提があるとしてツイートひとつで読解するのは酷かもしれない*2
それより、はっきりした別の問題がある。salmo氏は直後に歴史分野において下記のようにコメントしていた。
はてなブックマーク - 池上コラム不掲載問題、異議を唱えた記者以外は何を呟いていたか(dragoner) - 個人 - Yahoo!ニュース

salmo メディア, 統計 凄まじい体力とフットワーク。この人って、あえて突っ込みどころを作り、その下に地雷を仕込んでいる気がしてならない。 2014/09/10

あえて突っ込みどころを作る*3ことを想定しながら批判せず「スルー」する、まさに積極的な許容といえるだろう。たとえコメント先の記事が妥当な内容だったとしても、突っ込みどころを許容したことは間違いない。
それにApeman氏は一般大衆への嫌味としてしかウナギをとりあげていなかっただろうか。そこでsalmo氏のツイッターと見比べて、ますます首をかしげることになった。

一般人に対してはともかく、マスコミ報道を追いかけることに対して「マウント」という表現を使えるものなのか。それにここでは認識できていたマスコミ批判が、どうして後日に欠落し、一般人だけにマウントしているという評価になってしまったのか。「凄まじい体力とフットワーク」という評価を、なぜウナギ報道の継続的な記録に対してはできないのか。
しかも批判の批判に持ちだすのが「愛」とか、そんな態度問題に押しこめて何をしたいのか。していないがやればできるという根拠で、どうして行動している人を批判できるのか。専門家への言及が欠落しているという指摘*4にとどめることがなぜできなかったのか。「ニセ科学批判批判」をするべきでないとはいわないが、もっと説得的な批判はできないのか。
さらにツイッターをさかのぼっていくと、ますます首をかしげることになった。

こういう立派なことを書いておいて、1週間もたたずに「マウンティングしたがるって文字通りサルかよ」という表現を使ってしまうのは、人間として問題があるのではないか。


歴史修正主義という分野にかぎっても、はっきり「スルー」以上の問題発言をしていた者が、Apeman氏のツイートに反駁している場面もある。

naya2chan あー残念な人確定だなこりゃ。 2014/09/10

このid:naya2chan氏は朝日検証へ下記のようにコメントし、自分自身が残念な人であることを明らかにしていた。
はてなブックマーク - 「済州島で連行」証言 裏付け得られず虚偽と判断:朝日新聞デジタル

naya2chan 朝日を信奉してる人たちにはどう映るかが大事なところではある。 2014/08/05

本当に「朝日を信奉してる人」ならば、朝日新聞が前世紀から態度を変えていないことや、撤回部分が従軍慰安婦問題の核心ではないことを理解しているだろう。そのことは朝日検証全体を読むだけでもわかるはずだ。


実際のところ、歴史修正主義批判者が疑似科学批判もおこなっている事例は多い。問題のツイートをつぶやいたApeman氏からしてそうだ。だから「疑似科学批判クラスタ」というくくりは、よくわからないところがある。
どちらかといえば、歴史修正主義者が疑似科学批判者と自認しがちな問題と思っている。これは私自身の問題意識であって、Apeman氏の問題意識の解釈というわけではないが。

*1:こちらの経緯により、特別にIDコールをおこなわない。http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20120320/1332437264

*2:もっとも、私のエントリに対しても「そもそも彼の想定する疑似科学批判の原理ってなにさ」などと、異なる分野の対立という解釈しかできていないので、読解力を期待してはいけないのかもしれない。https://twitter.com/invasivespeacie/status/510599232391102464

*3:これにからんで、https://twitter.com/dragoner_JP/status/509736898730815489というツイートと、https://twitter.com/atkyoudan/status/509739249600454656以降のやりとりも参照のこと。ついでに「統計」の面でも批判しているTogetterも紹介しておく。http://togetter.com/li/717543私個人の評価としては、「池上氏のコラムはとても妥当なものでした」という記述がある時点で全肯定はできない。

*4:https://twitter.com/invasivespeacie/status/503448179052785664「僕が疑問に思ったのは資源管理の基礎的な教科書書いてる先生の名前がかけらも出てこないな〜ってとこ。横浜の松田先生とか何冊も書いてる人ですけど、資源管理を語るのにそういった人の名前や著書の気配すらしないのはおかしい。」