法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『劇場版トリコ 美食神の超食宝』

美食神アカシアの遺したレシピと食材を求めて、トリコたちは放棄された旧第1ビオトープへと向かう。そこで出会ったのが、今もビオトープを維持するあやめ所長。
やがて美食會を離れた元特別顧問ギリムや、追ってきた美食會副料理長たちと三つ巴の戦いになりながら、トリコたちはアカシアのスペシャルメニューにたどりつく……


人気少年漫画の映画化2作目で、内容はアニメオリジナルストーリー。TVアニメ放映中のメインスタッフが制作し、2013年に公開された。
劇場版トリコ 美食神の超食宝 公式サイト
公開時にはエキサイトで座古明史監督のインタビューが掲載されていた。
一人でご飯を食べていると、たまに淋しいじゃないですか「劇場版トリコ」座古明史監督に聞く1 - エキサイトニュース(1/5)
全体として、良くも悪くもTVSPのような印象を受ける作品だった。
80分という短めの尺に、原作のメインキャラクターを総登場させ、それなりの出番と活躍を用意。余裕がないためか、設定説明にあたる描写がまったくない。原作かTVアニメを見ていて人物と設定を理解している観客向けにわりきっている。
メインスタッフが作っているため映像は高位安定しているが、もともとTVアニメが東映制作にしては異様に映像に力が入っていた。映画ならではというスペシャルさを映像に感じない。
日常シーンではけっこう気を抜いた作画も多い。ひとりの作画監督か演出が全体を統括できるTVアニメでは、もっと絵に緊張感ある回が何度もあった。3DCGも、見せ場のアクションに使うには、手描きとの質感の違いをコントロールできていない。
ただ、志田直俊や板岡錦や森久司などが原画として参加し、特にギリムがかかわるアクションは素晴らしいものばかりではある。特にクライマックスの釘パンチは、演出的にもロケット打ち上げのような高揚感があった。
期待しすぎなければTVアニメの延長として違和感なく、気取らない娯楽作品と思えば完成度は高い。


物語においては、料理と戦闘をくみあわせた原作フォーマットの完成度を再確認させられた。
戦いながらレベル上げをしていく物語は珍しくない。しかし食材というアイテムの多面性が素晴らしい。まず戦うべき相手であり、争奪の対象でもあり、なおかつ回復アイテムとしても使える。食材の設定いかんで、物語を進めることも戦闘を進めることも自由に選べる。
強さだけが食材の価値ではないから、レベルを競う少年漫画でありながら強さのインフレを抑制できるのもいい。食材を調理する技術も重要なので、捕獲という名前の戦闘に参加しないキャラクターでも出番がなくならない。料理の思想をめぐる対立もあるので、キャラクターのバラエティを作りやすく、群像劇を成立させやすい。
正直にいえば劇中の料理はさほど美味しそうには見えないのだが、料理の価値は豪華さだけではないという価値観の多様性がしっかり確保されており、これも描写のインフレ抑制につながる。映画オリジナルで描かれた美食神のメニューも、豪華さとは少しずらした料理のジャンルで原作やTVアニメの本筋と内容がかぶらないようにしつつ、物語でうったえてきた価値観にそった説得力あるものだった。
そうした基盤がしっかりしているおかげか、映画オリジナルのキャラクターふたりも物語を進める能力と背景がありつつ、作品世界が壊れない。