法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

2010年代のTVアニメ各年ベスト

id:ephemeral-spring氏の提唱した企画を見て、何となく作品をならべてみる。
’10年代のTVアニメ各年ベストを決めよう - highland's diary

各年ごとに1作品ずつベストを出した方が、リアムタイムでの感覚が反映されて良いのではないかと考えました。

ここ最近はTVアニメを1日2時間ほどしか見ていないものの、思いあたったテーマであげておく。

2010『バトルスピリッツ ブレイヴ
2011『輪るピングドラム
2012『戦国コレクション
2013『ヤマノススメ
2014『幕末Rock
2015『Go!プリンセスプリキュア
2016『ヘボット!
2017『宝石の国
2018『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』
2019『Re:ステージ! ドリームデイズ♪』

リアルタイムの印象重視ということで、リアルタイムから1年以上後に試聴した作品は外した。

2010『バトルスピリッツ ブレイヴ

バンダイが立ちあげたTCGカードゲームのTVシリーズ3作目。3DCGのモンスターバトルも完成度が高い。

バトルスピリッツ ブレイヴ

バトルスピリッツ ブレイヴ

  • メディア: Prime Video

異世界転移ファンタジーな2作目の直接的な続編として作られ、ファンタジーの枠組みで文明SFを展開。積みあげた物語の先へブレーキを踏まず突きぬけていった。
作監ごとの絵柄の違いを許容したシリーズで、どんどん作画に力が入っていき、1年以上かけたアニメならではのビジュアルの良い意味での変化が珍しかった。
そして2019年、後述のように放映枠がなくなった後に、いきなり新作エピソード『バトルスピリッツ サーガブレイヴ』がWEBアニメとして配信開始。アニメの媒体変化を感じさせる出来事だった。
www.bn-pictures.co.jp


2011『輪るピングドラム

2000年代に入ったばかりは『トップをねらえ2!』コンテや漫画原作などで地味な仕事をつづけていた幾原邦彦の、監督としての完全復帰作。

輪るピングドラム

輪るピングドラム

  • メディア: Prime Video

ゼロ年代は1990年代の反動なのか、社会派ぶった葛藤するドラマが敬遠され、性的で快適な娯楽性ばかり匿名掲示板文化で賞賛された。
その終わりを告げるように、生まれながらに過去にひきずられた少年少女のドラマが展開される。
それでいて現代ファンタジーとして難解にすぎず、奇矯な言動は劇中できちんと奇矯なあつかいをされ、笑いも交えて見やすかった。
そして幾原監督は2010年代の終わりに『さらざんまい』で、さらにさらっと沈鬱な世界を駆け抜けていった。
作画や撮影にたよらず、無駄を削いでデザイン化する方向性でビジュアルインパクトを作りだしたのも珍しかった。

2012『戦国コレクション

少し『エウレカセブンAO』と迷ったが、ソーシャルゲームアニメが勃興した2010年代の空気を代表するならこちらだろう。

戦国コレクション Vol.01 [Blu-ray]

戦国コレクション Vol.01 [Blu-ray]

ソーシャルゲームが原作で、歴史事物の美少女キャラ化という安易なコンテンツに、名作映画のパロディを重ねがけ。
オリジナリティへのこだわりのなさがオリジナリティという特異なシリーズとして完成した。
hokke-ookami.hatenablog.com
そのため各話でムードやスタッフをがらりと変えつつ、力を入れすぎないことで全体の調和をとったコントロールも見事だった。

2013『ヤマノススメ

少し『帰宅部活動記録』と悩んだが、そちらは『戦国コレクション』に近い良さがあるので、完成度の高いこちらで。

ヤマノススメ

ヤマノススメ

  • メディア: Prime Video

TSUTAYA系の新興出版社アース・スターがTVアニメに進出した初期の代表作。同時期に発信された同社の作品群が思わしくないクオリティばかりだったことに比べ、ショートアニメで無理なく作品を成立させた。
同年には他にもショートアニメが目立った。いっそう作品数が増大し、しばしば放映延期もする時代に、TVで放映する余裕をつくるために効果的だったのかもしれない。
現実の趣味をアニメキャラクターをとおして描くジャンルのはしりでもある。そこで取材をていねいにおこない、各話でアニメーターが個性を発揮してもムードが破綻しない強度があった。
hokke-ookami.hatenablog.com

2014『幕末Rock

同じ青年芸能物で『少年ハリウッド』シリーズも良いので悩んだが、TVアニメはこれくらい安普請でも楽しめるという感じのこちらを選んだ。

幕末Rock

幕末Rock

  • メディア: Prime Video

TVアニメ1期『戦国BASARA』で川崎逸郎監督が見せた、不思議な倫理観の高さ、底抜けの能天気さといった長所が全面的に引きだされた快作。
そんな『戦国BASARA』を見て原作ゲーム側は監督が歴史にくわしいと考え、アニメ化をオファーしたそうで、関係者全員おかしい感じが逆に楽しい。
公式ムックのインタビューを読むと、歯車が狂いきった現場と、それゆえの奇跡的な噛み合わせで爆笑できる。

TVアニメ「幕末Rock」公式ファンブック (生活シリーズ)

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 主婦と生活社
  • 発売日: 2014/11/08
  • メディア: ムック

しかし敵味方の登場人物がそれぞれの信念と個性と立場にそって行動し、展開は意外性に満ちていて、毎回のように笑わせて楽しませてくれた。
脱衣(パージ)のバンク作画には力を入れつつ、ライブシーンは平凡な3DCGで、しかしそれでTVアニメはちゃんと成立するのだという見極めもうまかった。

2015『Go!プリンセスプリキュア

2004年に始まるシリーズで、最も映像と物語が高レベルでまとまった作品のひとつ。

Go!プリンセスプリキュア vol.1 [Blu-ray]

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あまり新たな挑戦はしなかったが、だからこそ話運びに余裕があって物語に過剰も不足もなく、最後まで安心させながら適度に予想を外してくれた。
そのなかでも、WEB系とも呼ばれるFLASH作画の手法をとりいれたアクションシーンの新しさを、定期的に日曜朝の子供向けアニメで楽しめたのも良かった。
【公式】Go!プリンセスプリキュア 第1話「私がプリンセス? キュアフローラ誕生!」
さまざまなTVアニメで試みられた手法的な挑戦が根づき、ここから広まっていく未来を感じさせた。
この年は、古い漫画のシンプルなデザインを変えず、手描きの線と動きで情報量を足して、魅力的なアニメを作りだした『おそ松さん』も良かった。

2016『ヘボット!

名古屋テレビ制作のアニメ枠で、現時点で最後となってしまった作品。書き送りするように演出と脚本が情報を追加していき、異常な情報量のバカアニメが完成した。

ヘボット!

ヘボット!

  • メディア: Prime Video

ぎりぎりのところで作画が安定してたり、実写素材をとりこんだり、ワタナベシンイチ監督版の『はれときどきぶた』を思い出す。
やけくそなやりたい放題で1年間をかけぬけた、スタッフの体力そのものも印象的だった。

2017『宝石の国

原作漫画や手描き作画の再現ではなく、3DCGという手法を表現の必然性として選択したTVアニメとして印象的だった。

宝石の国

宝石の国

  • メディア: Prime Video

それでいて日本のアニメがたどりついた手描き作画のタイミングやカメラワークをとりいれたことで、3DCGだけでも成立しないTVアニメだった。

2018『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』

アメコミヒーローの影響を思わせるサンライズ制作の刑事アニメ。ていねいに謎解きしたかと思えば重要な真実をあっさり流す、極端なメリハリが楽しかった。

DOUBLE DECKER! ダグ&キリル

DOUBLE DECKER! ダグ&キリル

  • メディア: Prime Video

2011年に大ヒットした『TIGER & BUNNY』につづく企画。超能力をもつマイノリティという設定から、マイノリティがドラッグにすがる設定へ変わったことが、2010年代の世相を象徴している。
キャラクターの設定も関係性も、ぐっと個性的になったがゆえに現代的。弱者や愚者をつきはなさず同化せず描いたことも感心した。
ヒーローを顔出し状態でも3DCGで描写して、わずかな違和感は茶化した番組の勢いで押し流したのも面白い。かつ要所でしっかりアクション作画の見せ場も用意して、全体を違和感なく番組としてまとめた。
青息吐息でクオリティを向上させているアニメ業界だが、これで必要充分なのだという自信が感じられた。

『Re:ステージ! ドリームデイズ♪』

同年では、少人数での全編デジタル作画を試みている新興会社ミルパンセ制作の『コップクラフト』も目を引いた*1。まだ他社の協力を必要としたものの、今作でアニメとして楽しめる域に達した。

一方こちらは、3DCG表現のライブシーンが定着するなかで、手描き作画でギリギリ成立するラインを見極めた、2010年代のアイドルアニメの象徴として感心した。全体として、どこかで見たような作りながら、けして一定水準から落とさず、全話を自然体で走り抜けた。
とはいえ2020年代のアニメ業界を占うような作品ではないとも思う。キャラクターデザインのデフォルメには新しさより懐かしさがある。
いわば総決算としてのベスト選出であり、便宜的にハルヒを選んだ*2ようなものである。


全体として、先行する作品をふまえて完成度が高く、かつ何らかのアンサーを返している作品を選んだ。それゆえ娯楽としてのとっつきやすさと、深読みを楽しめる奥行きが両立している。
もうひとつ、現場を疲弊させるクオリティ至上主義から少しでも抜けだそうと、何らかの模索を感じた作品を選んだ。その試みは必ずしも成功していないが、少しでも表現を幸福なかたちで作りつづける社会を、視聴者のひとりとして望んでいる。

*1:つい先日、原作者が現実の未成年女性へ加害欲をむきだしにしたツイートをしていたことに目をおおったが。別作品のコミカライズでかかわりながら決別宣言をしたカサハラテツロー氏のツイートを紹介しておく。https://twitter.com/tetsurokasahara/status/1203841282050707462 原作者の謝罪を受けて、ツイートを削除したとの報告ツイートを紹介。

*2:アニオタが非オタの彼女にアニメ世界を軽く紹介するための10本