法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

官邸の「日本の美」総合プロジェクトにおいて、津川雅彦座長が「天孫降臨」のアニメ化を主張していた件

id:tadanorih氏がツイッターで紹介していた。

公開されている議事要旨を読んだところ、たしかに3頁目と6頁目にそのような記述があった。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nihon_bi_sogoproject/dai1/gijiyousi.pdf
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/nihon_bi_sogoproject/dai2/gijiyousi.pdf
しかし複数の委員から疑義をていされているように、良い案とは思えない。
そもそも、たかだか一王家の支配正当性をうったえるだけのエピソードが、娯楽として海外で消費されるだろうかという疑問もある。もともと他国の文化に興味がある観客が楽しむだけだろう。


また、すでに天孫降臨をモチーフにしたアニメは存在する。NHKで放映されたTVアニメ『火の鳥』の第1話から第4話にあたる「黎明編」だ。
NHK アニメワールド
ちょうどGYAO!で3月22日から2話ずつ無料配信が予定されている。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00923/v00043/
同じ「黎明編」のみで市川崑監督が実写映画化もしている。ただし評価はかんばしくなく、配信サイトなどで公式に視聴できるもののDVD化などはされていない。
火の鳥 プロモーション映像 | 映画 | 無料動画GYAO!
そして肝心の「黎明編」のストーリーだが、史実や記紀にそってはおらず、卑弥呼の記述と古事記の描写を混ぜたもの。群像劇として描かれた戦争が、すべてを征服する騎馬民族の登場で無意味になっていくという顛末だった。


そう、創作的な問題として、天孫降臨それそのものは記紀のなかでもストーリーの娯楽性に欠ける。映像の見せ場となる戦闘すらなく、ほとんど順当に支配地に降り立つだけ。
天孫降臨以前の国譲りエピソードでは、武神の建御雷が現地の神々と戦う場面もある。しかしそれは因幡の白兎で知られる大国主命が統治していた地域を、自身の正統性を主張しながら天津神が乗りこんでくるというものだ。正直にいって爽快感はないし、かといって悲劇的な娯楽性にも欠けている。
だからか『火の鳥』の「黎明編」では、戦いの虚しさを強調する位置づけで天孫降臨を物語におりこんだ。そのままでは娯楽作品にならないという判断だろう*1。それでも、あまり評価が高い作品にはならなかった。


津川雅彦氏が天孫降臨をアニメ化して面白くなると考えているなら、俳優としての能力を疑わざるをえない。本当は天孫降臨のストーリーを知らずに推挙しているなら、それはそれでどうかと思う。
すでに巨匠の手で漫画化され、それが映像作品化されていることを押さえていないことも問題だ。議事要旨を読んでも、他に「日本の美」につながるような先行作品を調べているようには思えない。
このような会議でアニメが企画されても、世界にアピールできる作品ができるとは思えない。

*1:ちなみに、同じ記紀でも娯楽活劇として成立している倭建命は、かなり忠実な展開で「ヤマト編」として『火の鳥』の一エピソードとなり、OVA化もされている。