法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『絶望系』谷川流著

儀式的な肉体関係を求める姉妹。友人の部屋にとびこんできた四つの闖入者。闖入者は天使と悪魔と死神と幽霊だという。そして街で連続する猟奇殺人。
いくつもの異常が日常となり、しかし主人公は心を動かされることなく、淡々と観察しつづける。


比較的に新しいレーベル新潮文庫nexから2014年に出た作品。そろそろ「最近のラノベ」も読んでおかなければならないと思ったら、2005年に電撃文庫から出た『絶望系 閉じられた世界』の改題版だった。
谷川流 『絶望系』 | 新潮社
物語としてはデビュー作『涼宮ハルヒの憂鬱』の別ルートといったところ。よくあるキャラクター設定を少しずらして提示して、視点人物ではなく少女が問題をかかえていて、構成は一本道で単調すぎる。
しかし、SF設定レベルで新しさを提示できていた『涼宮ハルヒの憂鬱』と違って、闖入者の設定ははっきりわからない。ファンタジーな存在を、そう自称したがる人間として描写する演出だけなら珍しくない。性的なトークや、思わせぶりな態度も、それだけで引っぱるには弱い。超常的な描写も新味がない。
読者として事件の全貌を感づくことは難しくなく、なのに構成が単調なので飽きやすい。四つの闖入者が一気に来るのが良くなかったか。猟奇殺人の真犯人はあからさまだし、人間関係が小さいから、どんでん返しも予想できる。主人公の親に起きた出来事も、漫画やアニメで主人公の親が描かれない傾向をパロディした作品で見かけるパターン*1
興味深かったのは姉妹のかかえていた鬱屈。涼宮ハルヒの世界に対する失望と同種で、より確信的な内容。おとぎ話のような方法で先送りできた「憂鬱」と違って、肉欲も死も「絶望」を癒す助けにはならない。その絶望をなくそうという方法は、それはそれで思春期の物語として凡庸なのだが、デビュー作から通じる問題意識に作家性というものは感じた。

*1:たとえば1999年のTVアニメ『ベターマン』では、一瞬の悪夢として使い捨てたほど。