法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』のび太特急と謎のトレインハンター

ドラえもんの誕生日を祝うため、のび太とドラミがみんなを手作りのミステリートレインに招待する。ママとパパが出かけたすきに、家をまるごと列車にしようとしたのだ。
ドラミが準備のため目的地へ向かい、のび太は列車の運行に四苦八苦し、みんなは「列車用すごろくセット」で変身しながら遊びつづける。
しかし同じころ、列車の連結器が無理やり外されるという事件が頻発していた……


誕生日1時間SP。昨年が「ゼンマイ式潜地艦」をアレンジしたように*1、今年は「夜行列車はぼくの家」を思わせる*2。メイン秘密道具の能力を低下させ、冒険の障害を増やして物語の起伏をつくる。
例年通りに脚本は水野宗徳で、コンテ演出は3年連投の高橋敦史で*3、ゲストや衣装のデザインをつとめた丹地陽子との連携も健在。作画監督は4人と多めで、桝田浩史なども参加*4
ちなみにゲスト声優の佐武宇綺がメインキャラクターQTを演じていた『スペース☆ダンディ』では、高橋敦史も演出家として参加していた。
http://www.tv-asahi.co.jp/doraemon/news/0128/index.html

ドラえもん』初出演を果たすのが、人気パフォーマンスガールズユニット “9nine”のメンバーであり、声優としても活動している佐武宇綺(さたけ・うき)さん!

今回、佐武さんが演じるのは、ひみつ道具『DX(デラックス)列車セット』の“ヒツジの車掌さん”。

さらに主人公ダンディを担当していた諏訪部順一も、列車ハンターのモサロとして2度目の出演をはたした*5。これはもう実質『スペース☆ダンディ』といっていい気がする。



映像作品としては例年通りに素晴らしく、背景動画をたっぷり使って走行を表現し、遠景近景をきっちり別のマルチにわけて風景の奥行きをつくりだす。そこを昨年とはまた別の、手作り感ある挿入歌が気分をもりあげる。
よく取材が反映されているのだろう、さまざまな種類の列車が登場したり、運転が適度に難しかったり、鉄道ならではの描写も充実していた。
モサロとの対決も良かった。夜間にトンネルで追跡されるというサスペンスな接触から、敵拠点に乗りこんでの大活劇、日がのぼった後のひらけた場所でのアクションまで、レールの上を進みながら情景が変転しつづける。


しかし残念ながら、映像が素晴らしくて物語が適当なところまで『スペース☆ダンディ』のようだった。
かなり話運びは未整理で、場面場面は楽しめたものの、全体をとおしては感心できない。近年では最も誕生日SPらしい状況設定なのだが、いざ旅がはじまると誕生日らしさが薄れていくばかり。冒険を構成する3要素のつながりも弱すぎる。
まず導入のミステリートレインだが、誕生日を祝う目的を明らかにしたまでは良くても、目的地まで説明したためミステリー要素が消えてしまった。どこに行くかわからないという謎かけがないから、せっかく力をいれた鉄道風景への興味がつづかない。
次に列車内ではじまる「すごろく」だが、誕生日とも鉄道とも関係ない、ひまつぶしのレクリエーションにすぎない。その「すごろく」で変身したことが冒険にかかわってくるが、そのためのアニメオリジナル秘密道具ということがわかりやすすぎる。
そして列車ハンターのモサロだが、のび太たちをねらう理由は、ただ珍しい列車と思ったからというだけ。たとえば列車を盗むようになった動機として、列車と誕生日に関係する出来事があったという説明すらない。楽しいキャラクターではあったが、だからこそ敵として使い捨てただけなのがもったいない。


ミステリートレインを題材にした作品といえば、原作者が生前に結末まで書きあげた大長編『ドラえもん のび太と銀河超特急』がある。
はじまりは、謎めいた列車による宇宙旅行。あくまで遊びの旅だったのに本当の海賊が襲ってきて、しかしそれはテーマパークのアトラクション。そのテーマパークが目的地とわかった後は安全に遊んでいたが、やがてテーマパークが暴走していく。あくまで娯楽なミステリーを表に出しつつ、少しずつ真実の危機が侵食していった。
同じように今回の誕生日SPも、あくまでミステリー性をたもちつつ、危機が虚構か真実かをわかりにくくすれば、ずっと列車の旅への興味がつづいたと思う。
たとえば、はじまりは幽霊列車のニュース。それを噂していたドラえもんたちにミステリー列車の招待状が舞いこみ、いざ行ってみると、のび太とドラミのサプライズパーティーと判明。安心して夜行列車を楽しみつつ、目的地を推理するドラえもんたち。しかしドラミが演じていると思っていた列車ハンターが、本当に襲ってくる。のび太は問いつめられ、ミステリー列車を思いついたのは幽霊列車のニュースを見たからと白状する。こうした展開であれば、ずっと列車ハンターとドラえもんの物語が深くつながっただろう。