法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『団地ともお スペシャル』〜夏休みの宿題は終わったのかよ?ともお〜

戦後70年の夏休み、ともおの小学4年らしい日常はいつもと変わらないかに見えた。
しかし補習帰りの高校生たちが街頭のTVから流れる戦争の話題にのっかったり、ひょんなことから手助けさせられた老人から小学生が戦争の記憶を聞いたり、囲碁をしながら老人が戦争の評価でケンカをはじめたり、この夏ならではの断片が少しずつ描かれる。
やがて高校の補習から派生した日本近現代史の講義が、関係ない人々の興味をあつめていき、教室に熱気があふれていく。


NHKのTVアニメシリーズが2月に最終回を迎えた後、戦後70年企画で新作されたSPアニメ。本放送は8月14日で、8月18日の再放送を視聴した。
アニメワールド+BLOG:NHK | 団地ともお | いよいよ夏のスペシャルだぜ!ともお
映像は、登場人物をフル3DCGで制作している特長はそのままに、日本の市井の生活をそっけなく切りとっている。
コンテは渡辺歩監督が西田章二や内田信吾と共同。奇をてらった演出は少ないが、ポイントで3DCG背景を活用したカメラワークをつけたり、生活感ある日常の風景をひろったり、まるみのある空間をつくりだしていた。


脚本は原作者の小田扉が、連続TVでシリーズ構成だった山田隆司と共同でつとめている。NHK解説委員の柳澤秀夫が監修。
戦争の歴史について、作品内での論評はほとんどない。あくまで夏休みの日常がメインであり、歴史について立ち止まらず考えようと断片的にうったえていく。思い残すことがないようにと熱心に自説を語る歴史教師の講義も、その内容は描かれない。
そこで気になったのは、素朴な疑問をぶつけていく対象が、平和や反戦のうったえばかりであったこと。作中では戦争したい人間などいないという会話があったが、好戦的な思想や運動は現実にもある。個人的にも日本の戦後の平和を批判する余地はあると思うのだが、そうした批判に対する応答にも、不充分であっても平和を成立させようとした歴史だってある。


少し調べてみると、先に調べていたらしい[twitter:@nisoku2]氏のツイートで氷解してしまった。残念ながら、いささか喜ばしくないかたちで。

これが半藤一利保阪正康に影響を受けていたなら、たとえ左翼でも事実認識から人権意識まで一定の共有はできる。小野田寛郎山本七平の主張を信じているなら、それぞれ視点に問題はあるのだが*1、元軍人ではあるし一定の価値はあるかもしれない。
だがしかし田母神俊雄を評価するのは人権感覚からしても信じがたいし、戦争という呼称を否定しながら実質的な戦争を自衛隊にさせようとしている実例でもある。


実際に小田扉ツイッターを確認したところ、今回のSPに関係する質問へ熱心に答えていて*2、誠実であろうとしているのではあろう。
ただ脚本の変更をよぎなくされたという連続ツイートを読むかぎり、NHK側の判断の妥当性を評価せざるをえない。

いまだ歴史学には解釈がわかれる領域もあるが、多角的な証言や資料で学問的に通説がかたまった領域はあるし、他国との共同研究で合意がとれた領域もある。
さまざまな障害に悩まされながら解釈の共有をめざし、戦後70年をかけて自国の歴史を見つめようとした積み重ねが、日本の歴史学にたしかに存在する。
もちろん積み重ねに新たな疑問をのべることは間違っていない。しかし単純に解釈がわかれるという主張は、合意をめざした積み重ねを無視することだ。止められて当然だろう。