法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『ドラえもん』恐竜ハンター

今回は原作初期の短編を30分の冒険譚にふくらませてアニメ化した。映画『ドラえもん 新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜』の八鍬新之介監督が脚本とコンテをつとめ、氏家友和が演出、小野慎哉と山下晃が作画監督という布陣。


原作は、タイムスリップして太古の恐竜を狩って遊ぶという、無邪気な物語。恐竜ハンターを時間改変する犯罪者に位置づけた大長編『ドラえもん のび太の恐竜』との矛盾が指摘されるエピソードである。
実際は矛盾を解消するミッシングリンク的な作品も存在するのだが、今回のアニメ化ではオリジナル設定をつけくわえた。それは捕まえた後にハンティングセンターが元の場所に戻し、かわりに恐竜メダルを受けとるというもの。恐竜版のキャッチアンドリリースといったところ。
個人的には恐竜を捕まえて自分のものにするというプリミティブな面白味を肯定したまま、その問題性にも気づいていくというストーリーにしてほしかった。しかしハンティングセンター側のガイドロボットを登場させ、ふたりきりだった原作にはない展開を作りだしたのは悪くない。
また、原作では眼鏡を凸レンズとしてあつかうという、のび太が近視という設定と矛盾する描写もあった。今回のアニメ化では、眼鏡を使った逆転理由を変えることで地味に矛盾を解消したのが期待を超えて良かった。


のび太ドラえもんがケンカしたり、仲直りしたり、さまざまな危機に直面する冒険譚として、アニメオリジナルの中盤は悪くない。「ありがちな展開」という自己ツッコミ台詞に複数の意味をこめているのも印象的。
前述した1980年の映画『のび太の恐竜』から1993年の映画『ドラミちゃん ハロー恐竜キッズ!!』、さらに2006年のリメイク映画『のび太の恐竜2006』から、さらに最新の学説をとりいれて羽毛の生えた恐竜が登場したりする。一周して翼竜が飛行できることが正しくなっているらしいのも面白い。
映画を任されたばかりの若手演出家が力を入れ、うまい作画監督が入っているため、映像も充実していた。ロングショットを多用して恐竜のいる世界を広々と見せ、ダイナミックな恐竜のアクションを散りばめる。


しかし、最後の最後に原作展開に戻るのが納得できない。
のび太を無茶な危険にあわせてしまった反省をメインストーリーの結論にした直後、のび太を恐竜をおびきよせるエサにする原作のメインストーリーを持ってきてもギャグとしても違和感がある。ここは原作のメインストーリーを導入に用いて、のび太とケンカした理由にすれば、ずっと自然な展開になったろう。
オリジナル展開で物語の基盤が変わってしまったのに、原作の物語を乗せても全体の統合性が失われてしまう。部分的な原作再現をするよりは、それぞれの媒体にあわせた表現として完結させてほしい。