法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『相棒season13』第3話 許されざる者

3年前に人権派弁護士が冤罪にした青年が、密室状態のマンションで殺された。その謎を解く。
わりと密室トリックはオーソドックスで、登場人物の性格や動機と密接で、新味はないものの適度に複雑で、1時間の推理ドラマとしては良かった。しかし警察ドラマとしては、ひねりすぎた結果として日本社会の先入観を追認するだけの結論になってしまった。


それでも個人的に推理ドラマとして動機の安易さには目をつぶれる。先入観を予想以上の深さまで追認することの、ストレスと裏腹のカタルシスを楽しめないでもなかった。
問題なのは、闇サイトへ大金をふりこんでの殺人依頼が、ドラマとして放置されたまま結末を迎えたこと。殺人依頼者に対する裁判の予想や、闇サイトの実態くらいは最後に言及があるべきだろう。
実のところ闇サイトに何かしらのイカサマが隠されていて、それがドラマのオチになるとばかり思っていたので、それとは別個の問題がオチになる構成には失望した。


そのドラマのオチにからんで、ツイッターで興味深いやりとりを見かけた。

この[twitter:@valerico]氏の疑問はもっともで、『相棒』を見ていて何度も感じるところ。特に今回は、結末の直前に正義の暴走を批判しただけに、「相棒」からチクリと指摘されることが引っかかるような演出になっていた。
ただドラマスタッフの意図は別として、主人公自身の思想として純粋に考えれば、古典的な名探偵のそれと同じだけだろう。正義のための犯罪は許さないが、そうした犯罪の真相をあばくための犯罪だけは例外的に許容される、そういう思想で杉下は動いているのだ。
そう考えていくと、2年前に放映されたエピソードの結末に感じた疑問も、杉下と同じ価値観が肯定されたと考えれば、ドラマとして一貫性はあるかもしれない。
『相棒season10』第8話 フォーカス - 法華狼の日記

結末で写真家が全肯定されているかのような描写は注意が必要だろう。被害者の様々な顔を写すためとはいえ、盗み撮りしていたことには変わりない。高尚なテーマをかかげれば良心が痛まず過激な表現をこなせてしまう、という問題も見ていて感じた。


『相棒』で杉下と「人権派弁護士」の衝突を真に描くならば、どのような依頼人でも守ることを優先して秘密を隠す、そういう職業倫理に堂々と殉じる弁護人との衝突になるだろう。
理解してもらうのが難しいところではあるし、一話完結ドラマで描く余裕も少ないだろうが、見てみたい気持ちはある。