法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『安達が原』

宇宙旅行者を殺す「魔女」が住むという星へ潜入した調査官ユーケイ。そこで出会った老婆を怪しみ、ユーケイは禁じられた扉を開ける。そして老婆を追うことになったユーケイは、革命に燃えた過去をふりかえり、やがて予想外の断絶へ直面することとなる。
能の演目「黒塚」をモチーフにして、時間と空間を断絶させるSF設定を導入。男女の悲恋と、革命の形骸化と、青年の魂の死が、物語として重なりあう。


手塚治虫の短編作品集『ライオンブックス』の一編から、1991年にアニメ化された作品。
監督の坂口尚は、ユーゴスラビアを舞台としたマンガ『石の花』で知られる。絵コンテとキャラクターデザイン、さらには全ての原画まで手がけた。49歳で急逝した坂口監督にとって、アニメ界における遺作でもある。
先日に紹介したが*1GYAO!で無料配信していたのを機会に視聴した。冒頭数分は手塚治虫公式サイトでも視聴できる。
http://gyao.yahoo.co.jp/p/00923/v00046/
安達が原|アニメ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL


30分という短編だが、劇場で単館公開されたということを抜きにしても、驚くほどクオリティが高い。
キャラクターデザインの頭身は高いが、アニメとして線を整理しつつ立体感を損なっておらず、現在の視聴に耐える。一人原画なので統一感も充分だ*2。メカデザインも古びを感じさせないシンプルさで、なおかつ緻密でなめらかに手描きアニメートされている。やや古臭いのは爆発エフェクト作画くらいだ。
演出も、小技を多用しながら滑っていない。筆文字のサブタイトルから、光源を意識した陰影描写、舞台の広がりを感じさせるレイアウト、デザイン化された回想場面、どれも基礎力が高いからこそ応用が映える。
原作が短編ということもあって、物語のまとまりも良い。あくまで革命そのものは否定せず、形骸化した革命へ順じてしまう愚かさと、そうした社会の激動によって個々の人間性が失われてしまう苦しみを描いた。

*1:http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20130626/1372257971

*2:ただ、キャラクターデザイナーと一人原画を同じアニメーターが担当しているのに、なぜか作画監督として小林準治が入っている。ちなみに小林準治は現在アートアニメの講師をしているらしい。http://www.laputa-jp.com/school/05/kobayashi.html