法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス』

増井壮一監督。例のごとくEDはカットされているが、最近にしては長尺で放映した部類かな。
てっきりタイトルからSF風味の物語かと思っていたら、逆に例年より架空性の高いジュブナイルファンタジーだった。太陽の反対側にある兄弟星という古典的な敵地設定*1も、これならば納得できる。
しかも剣と魔法のファンタジーではなく、子供の成長や通過儀礼を比喩的に描く、古い児童文学のような作り。しんのすけが小部屋にとらわれて巨大化する場面など、明らかに『不思議の国のアリス』から引用したものだ。
ひまわりを連れ去った兄弟星の統治者たちも、決定的な衝突は起こさない。地球と兄弟星をともに救おうとして、ひまわりを王女にしたてあげたわけだが、親兄弟と引き離しつつ償いの意思も見せる。しんのすけと両親に試練を与えるが、それを乗り越えた覚悟に心を動かされていく。


ジャンルが意外すぎて冷静な感想にはならないが、これはこれでシリーズに前例のないパターンで、なかなか先が見えなくて楽しめた。ひょうひょうとした主人公のかすかな成長と、傲岸でいて器の大きな大王のキャラクター性が、特に印象的だった。
おしむらくは映像が弱かったこと。背景動画を多用したアクションなどをはさみつつも、充分なボリュームのある見せ場にまではなっていない。良かったのはトンネルを移動する場面の悪夢めいたメタモルフォーゼくらいで、それもシリーズ旧作に比べると頭一つ落ちる。こういう夢めいた物語こそ、湯浅政明監督に手がけてほしかった。

*1:あまりに古典的すぎて、他の惑星の引力などでいつまでも太陽をはさんで点対称で回り続けることができないことが、すでに科学的に明らかにされている。